IT歌会の記録「原人の海図」 2

(2001年以降(IT歌会の記録 「原人の海図」)

【水無月によせて】


<詠草>


・首の無い馬が歩くよ水無月の手紙を待っている蛇使い


・水無月の雨の青さよアジサイの紫翳る雨の青さよ


・病み疲れ病み呆けてもいる花びらが水無月の文になりたいという 




<番外>


・まだ雨は降っていますか 雨の日は痛む右手をどうしていますか


・雨降れば小さき渦のえごの花 流れて消えて水無月の川 


・命には命の水が必要です 葦、葭原に 鷺、カイツブリ 


・手品師の帽子の陰で鳩が言う 影も形も無い鳩なんだぜ 







・炎天にやすらう木陰なき蝶が身をよこたえる紫陽花のもと 


・夏の雪ゆうべ降るかと思うまで白き花びら散る木陰には 


・木の陰に蟻の行列見つけたり蟻が向かっている奈落あり 




【百年の孤独】


・「二百年後に最高の音を出す」 ヴァイオリンは夢を見ている

・百年後私は来る千年後あなたに会える 今かも知れない

・百年後千年のちも、さがそうよ 朝の露に濡れる蛍草

・ももとせもちとせもひとを待つゆえに人待つ姿残す渚に

・いつまでも愛しているし待っている海の果てには夕陽が沈む

・永遠の愛を誓ったわけじゃない ただ好きだった水の透明

・百年の恋より恋を焼き尽くす恋してみたく夏の終わりは

・千年の時超え君に逢うために生まれてきたと雨月の虚言

・吉野道・熊野古道 いにしえも今も変らぬ蝉しぐれ降る


・思い出せ君くる夜の足音を千年恋いて待ちわびる蛇

・うばたまの刻すごす身の朝霧に草露にぬれ帰る武蔵野

・遠く来て体温つたえ息はてし 瑠璃色の羽ふるわせながら

・海亀が卵を産むよ泣きながら 潮騒が呼ぶ海へ帰るよ

・浦島を乗せた海亀 月の夜人魚と遊ぶ僕は海亀

・さぁもう言い訳もできないくらい時間一杯とうとう告白しなけりゃならない

・だけどこれが難しいのさ 百年も君を恋していたなんて言えやしない

・ニュートリノ心に降れば眠れない夜のあなたを連れ去る銀河

・千年の愉楽極めて逝くゆえにもう怖くない一人で行ける

・みほとけにも神にも用はありませぬ百年後にも一人でもいい

・雨や風、降る雪ならば信じます レースのように薄い雪でも

・百年の愛と孤独は裏あわせ葉脈のぼる夏のソリトン

・求めなさい霞ヶ浦の面積を 百年後も帆船浮かべ

・その二人偕老同穴の誓いする 土星の環のような空隙

・カッシーニ、その空隙は誰のもの 愛のためこそディスタンスはあり 






【折句 夏の水 な・つ・の・み・ず 】


・夏来れば月見る月は野火止の水に映りて厨子にも入らず


・夏の恋 続きはあらず野薊の緑濃くなる図式通りに


・夏木立涼しき影を野の果てに水満々と図面の湖


・夏木立、ツクツクボウシ、野の仏 水清き里、厨子王の里






【題詠・夏の表情】

・白き蘭あなたのことだ満ちてくる記憶の中に射す晩夏光

・夏雲のゆきてかえらぬ夕暮れを香枦園浜から立ちてくる風

・風よどむ日の匂いがあるとあなたは言う 海の匂いを伝える手紙 




「題詠・ふるさと」

・帰ろうか 少し疲れてきた私 今、故郷の空の誘惑 

・菜の花が海までつづく道をゆく 海辺の道は潮騒の道

・黄昏の稜線見れば思い出す 母の笑顔や庭の打ち水



<番外>

・故郷と言ったら何を思いだす 光る海とか薔薇色の海 

・私の故郷なんて無いのかも あるいは幾つもあるかもしれない

・故郷は青い海です鮮やかな それから鉛色した海も

・故郷に此処に家族は集うけれどあなたがいない 母のいない夏

・風鈴は土の風鈴 その塀も朽ちかけている土塀 椿の

・椿がゆれ椿の影がゆれている 土塀に夕日、掘割の水

・海辺には海辺の墓地が 故郷に私を待つ花の咲く道 





【題詠・硝子】


『硝子の狐』
─ 硝子のための103の断章 ─ 


<濡れているのは私 ガラス越しではない雨の秋>

瑠璃、青玉、翡翠、水晶、硝子体 ルネ・ラリックの硝子の小壜

ぎやまんに金魚浮かべて芥子ゆれて、阿片の誘う夢幻極楽

室内の硝子の床の下見れば錦の鯉も泳ぐ悪趣味

この空の見えない玻璃を突き抜けてあなたの鳥が飛んでゆく秋

あの夏の焦熱地獄一本の硝子の壜に立つきのこ雲

硝子溶け鉄筋が溶け人が溶け街は焦熱地獄 向日葵

向日葵は焦げ傾きて日静か頭上に割れるガラスの太陽

断頭台そのギロチンの露と消えるガラスのように繊い血脈

血は血にて贖うものを血の樽を硝子一個に換えて携う



血の色の葡萄酒色の硝子壷 一族全て死に絶えながら

こんなにもきれいな虹を夏空の東の空の七色硝子

真実は誰にも見えず明かされずガラスの兎耳垂れている

太陽を憎んだサティ窓硝子つたう雨だけ愛したサティ

ジムノペディ、グノシェンヌ、三つの夜想曲 硝子越しに見る裏庭の雨

夜がきて電車の窓に見えるのはあの人が住む遠い街の灯

城の奥、鏡の部屋に使われた硝子職人生き埋めの森

死が染めているのだろうか夢硝子 黄昏れてゆく窓の夕映え

薔薇・菫・オリーブ・檸檬・黄昏が硝子に射した夏の花束

硝子窓つたう水滴、雨のしずく窓に映っている灯と私



この窓も窓の硝子もカーテンも古き佳き日の忘れ物でしょう

終電車レール軋ませ走るから疲れた男もいる硝子窓

夜明け前、その茄子紺の空の下 中村豆腐の硝子戸が開く

その人に夕べの愁いあるらしき うすむらさきの硝子の埃

見ていたわ焚き火が消えたあの庭と硝子の破片のような夕映え

高熱にうなされながら死んだのねステンドグラスの百合と黒薔薇

熱い熱い炎える夕陽の紅の運河の街の硝子工房

それはあのガラスの靴のお話の燃えないゴミになった結末

クセナキス ホロス、エヴァリアリ、ノモス・ガンマ曇り硝子のような音楽

<雪の夜にランタン赤き窓ありて 若き主人の古美術の店>



退屈は夢見る硝子 ベネチアの、ローマの酒盃に注ぐ葡萄酒

その街に大きな硝子窓があり 通りを歩く人と樹が見え

街路樹が桜並木の葉が触れる大きな硝子窓のレストランがあり

学生も子供を連れたお母さんものんびり歩いている硝子窓の向こう

食卓の硝子の小壜 紫の露草に似た花が一輪

薄藍色の煙草の煙微かにゆれ燐寸は消える硝子の灰皿

飼猫はそこに居たはずだったのに 硝子の函が骨壷となる

透き通る仄かに点るペルシアンブルーのような瞳、硝子の

烏羽玉の夢かと思う夢なれと冬の硝子のような愛恋

「聖なる樹、ゲルニカの樹よ 永遠に」 硝子のように砕ける地球



我はもや花のもとにて春死なん 満月、湖(うみ)に硝子のように

それからは死がすべてとなったから硝子戸を開け出てゆくゴースト

さびしくて心砕けて散る硝子うすくれないの焼き場の煙

野火炎えて心焼かれてさまよって何処の土に帰る 玻璃割れ

武蔵野は昔、飛火野 飛火野の野焼きしてみよ 硝子の狐

蓬莱の山に鶴立ち鶴帰る鶴来という町の大通りの硝子屋

破綻する破水破裂破砕破船破調 硝子の白鳥

黄昏の野をゆく水の逃げ水の硝子のようなきらめきの秋

その人のピアノの中のアラジンの魔法のランプ・硝子の小舟

海があるピアノの中に海がある硝子の小舟・水晶の舟



森には樹、海には魚 この街のガラスのような薄いニンゲン

焼けた砂、海辺の町にゆったりと時は流れて八月六日の硝子の太陽

ああ、とうとう思考回路は遮断され脳は硝子のように溶けるよ

今宵八時と限られてみればまた書く玻璃の歌 あはれ涼しき死もあるらむに

硝子のこと昔は瑠璃と言ったのね 瑠璃、玻璃、硝子  水の透明

影法師 影踏み遊び硝子戸に影が重なる死の影遊び

ピアノ聴くけだるき午后の瑠璃色のサティを聴けば夏の雪降る

あてもなく無益に時を徒に玻璃、瑠璃、硝子 九月の驟雨

鸚鵡にはおやすみなさいを教えよう硝子の小壜が涙壷とも

月蝕のほおずき姉の産褥の枕辺に硝子のトレー



胎内にあかるき光りともす子の指を映して液晶硝子

夏蝉は遠く遥かに死絶えて私を待つ瑠璃の一族

蛇が巻く後ろの森の夜の月 硝子のような眼の梟よ

飛騨高山、四国内子町の和蝋燭 古い硝子戸開ければ燈る

秋の旅 古き湯宿の硝子窓、瑠璃紺青の海と白波

「出部屋」には産婦が抱く子が眠る硝子を染める海の夕焼け

海が凪ぎ月光があり炎えつきた硝子成分のような心音

いいえまだ人生のプリズムのその一面しか知らなかったの

太陽を私は集めているのです この集光器の午后の太陽

悪徳の旗が靡いておりました背徳もまた硝子の仮面に



熱病に曇る瞳に黒天使 薔薇をかざして硝子のランプ

火の髪の火の飲食(おんじき)の弱法師 夏来ればニンゲンを返せと

もの憂くて倦んで疲れて死にたくて心の奥の硝子砕けて

野火もえてまた野火もえて身は焼けて瑠璃の仮面の砕けて落ちて

天翔ける天使が私に言いました硝子をお前に与える野を焼け

詩と音楽、珍味佳肴につきものの二つも盛って硝子の器

ボローニャの腸詰、マラガの干し葡萄、海老も冷たく硝子の大皿

難題は遡っても玻璃に映る残照のような当主の浪費

山海の珍味蒐めて還暦の馳走配って血潮の玻璃皿

露西亜からは硝子の壷とサモワール思い出だけを帰国の友に



火のように淋しがってるあなたには硝子の猫や白梟を

水槽にメダカ泳げば透明な硝子に水藻ゆれて夏来る

発作以来人が変ったようになり硝子の水盤には睡蓮を

憂愁・苦悩・絶望・悲惨・呪詛・傲慢あなたが見ていたのは万華鏡

一冊の書物のように傍に置く 氷のような硝子の文鎮

何という美しさだろう硝子より星より水は涼しく湧いて

街道の中心にして馬留めて清水を汲んだ硝子井の井戸

カナリヤは死んでしまった坑道の空気、硝子のように吸い込み

この水を空の真中に汲み上げる硝子のような刻があること

その恋も額の熱も奪うためガラスに氷、水には花を



舟歌ははるかに川を下るから硝子の舟も泥の小舟も

終戦の直後には居た傷病兵 傷痍軍人義眼の兵士

笛吹いて少年少女鼓笛隊ガラスの仮面がパレードをする

焼かれたる金の野山の明烏 再び告げよ瑠璃の王国

遠く来て呼べど答えず谺せず玻璃の湖面に白鳥一羽

沈丁花、梔子、白きえごの花 花影ゆれる瑠璃色の日没

見殺しの父と母との杜子春の銀の硝子に似る蜘蛛の糸

遠火事を見ている夜の硝子窓 燃えればいいと誰かが言った

炎上をしている三島屋火薬店 冬の花火が硝子を揺らす

火の壷も炎の硝子瓶もある ただ着火する動機薄弱



青空の硝子のような輝きの真中を進む黒の一隊

卑弥呼病めば卑弥呼の国もまた病んで瑠璃色の海もまた病む

今日もまた夢を見ている夢見ればあなたに逢える 硝子の狐











「オノマトペ」歌会



茫々と風は海辺の村に吹く 人をどうして殺しちゃならぬ

海辺から海辺の村へさすらって 吹雪じんじん背黒のかもめ 

打ち棄てて人はいずこの空の下 ゆらゆら赤い赤い夕焼け
 
鰊来て鯖きて人もきた村の砂押し上げる波のどどんこ

難破船、浜辺にあれば蟹遊び子供も遊ぶきらきらひかる 
 
人呑んで船も沈めて波ざんぶざんぶざんぶと渚に寄せる
 
眠れない一億の夜と人を抱き 地球はウオーン回り続ける
 
今日今から?夜明けの珈琲でもいかが 蝉もみんみん鳴き出すでしょう

虚無の星、虚無の宇宙が大好きよ 夢が現実、現実が夢
  
この星のどこかに必ずいるだろう 反世界にも雨のかたつむり

などを序章に詞書に ぽわーんぽわーん夢世界地球

しんしんと雪は降るべし降り積もる 天上の川降りくる峰に
  
ぬらりひょんどこに行ったかぬらりひょん背中に負んぶしていませんか

君が鳴けばじんじじんじとかなしみも湧いてくるから八月の蝉
 
桜鯛、瀬戸の小島の海水の匂いしているピチピチ尾ひれ
 
異界には異界の音がするだろうゴーストたちのしゅわり衣擦れ
 
洞窟に潮満ち潮引きさらさらと波の音だけ聞こえ天心
 
サリサリとセロリを食めば、朝採りの胡瓜、トマトも浮かぶ井戸水
 
ぎらぎらと太陽が照る油照り 狐が待っている曼殊沙華
 
夕焼けよ何を弔う何を泣く 海に私の失くしたゆらゆら
 
夕ぐれはしずかに来たり花びらはしんしんひらく夕顔の花 

さようなら夜明け朝焼け海ほうずき夏の海辺のたんたん赤蟹
 
するすると器用に網を繕って、漁師の玄さんまた来いと言う
 
水音がしている 音は山奥の水車ぐるるん回す水音 



「題詠・洗う」

・この水が黄に染まるとも岩洗う水はゆたかな中国の水 

<番外>

・クレゾールの匂いしていた洗面器 呼吸停止の死児運ばれる 


・洗っても洗っても洗っても拭えない記憶の夏の神の指先 






「題詠・未来 」


<詠草>


・婚約は月燭の夜 かぐや姫略奪委員会が留守の間に


・シャボン玉消えるみたいに消えた虹 未来の空の涼しい地球


・きっとこの石そっくりの魚もいて 石のふりして眠っているね 



<番外>
・来世紀、私はどこにもおりません そう言っていた陽だまりの猫


・ love love love 薔薇も珊瑚もサボテンも明日の夢を見ているだろう


・ 夜明けにはめざめる魚 昨日見た夢がリアルで怖かったこと


・《mにはね砂漠のキツネいないけどバオバブだってコワクアリマセン》





「連想短歌」


・ぐんにゃりと木は立つサンレミ療養院 南を離れ北を恋う人


・荒れ狂う空の下にも麦畑 ヒース花咲く故郷へ向かう 


・烏の群れ飛ぶ麦畑 黄金の穂を笑う嘴太


・麦畑、ゴッホの烏飛んでいる 輝く穂波、ゆれる麦の穂 



・ゴーギャンが真犯人だという噂 ゴッホの耳を切ってタヒチへ 






〈自遊室〉黒衣


横顔の黒衣のひとを凝視めればいつか降りだす八月の雨 


逆光の中に立つ人みていれば振り向いた顔 死者である人 


むごたらしい傷癒えることなくてその傷口の蛆を見た今日 



「温故知新」歌会

・烏羽玉の夜に目覚めて儚ければヴァイオリン・ソナタのための第二楽章 


・烏羽玉の夜を過ごす身の朝霧に草露に濡れ帰る武蔵野 






「クリスマス」歌会



<詠草>


・しんしんと雪降り積もる夜の窓 夜の子供が待つサンタさん 


・クリスマスツリーを肩に歩く人 ピエール&シベールの樅 


〈番外〉
・地下街にホーキを持った魔女がいる雪も降らない降誕祭前夜(旧作) 



・聖夜にはいったい何が起こるんだ南極ではもう氷が溶ける 


・クリスマス祝う国ありクリスマス祝わぬ国あり暑いね冬も 


・地上には星が燿めく窓があり 雪しんしんと聖夜の祈り 





「いろ・おと 」歌会



・今日までは病気ではない明日からやるせないほど狂って虹に




・雨音が微かになれば聞こえますサビシイカナシイムナシイと虫




・描きかけのcanbas残し逝った人 その空白に映る鳥影 




・生まれざる花も生まれむ風たちは未生の夢を語り始める 





自遊室「ク・リ・ス・マ・ス折り句」

・苦しくて林檎倉庫に住いしたまだ若い日の素敵な歌人(斎藤史さん) 

・降誕祭 林檎の蜜が充ちるころ 素裸の木と真裸の基督すっぴんの人
 
・クロッカスやリボンで飾るスイートピーマラガの葡萄も素敵な晩餐
 
・ガラパゴス諸島の象亀 イグアナも重なりあって海を見ている





折句 去ぬる年「い・ぬ・る・と・し 」歌会


・いつまでも濡れていたのは瑠璃色の鳥の飛翔を信じていたから


・いつのまにか盗人萩は留守中に盗難予防のシステム解除


・いつだってぬれるナイフはルキーニにトート閣下の死神の犠牲者


・いつだってぬれる眼差しルシファーの遠き闇から死者呼ぶワルツ


・いつまでも温もりありて留守の間も年越し冬のシクラメン咲け 


・一度くらい「濡れ手で粟」が累損の途方もあらぬ死に在庫の原因


・生きていた沼には残ったループがあり飛べない鳥が死んだ夜明けに  


・いつよりか鵺(ぬえ)にすら似る類人猿 時には夢を死ぬほど抱(いだ)け 


・色と音塗りこめているルドンの薔薇 遠く氷雨の降るシスティン礼拝堂  


・石の影 ヌーヴォロマンの瑠璃の影 時が死を超え光りを放つ


・いつまでも脱いされない累々と時は無惨に屍骸を重ね  


・石蹴りと塗り絵とロウセキ留守番の年子に生まれた姉妹の遊び


・いつからか抜きつ抜かれつルーカスの遠い海辺のシーサイドゲーム


・今は夢ぬばたまの夢 瑠璃色の時が流れて死に至る夢  


・いつの日も温もりありて累代の墓の隣りの紫苑の花群


・抱きあう濡れる花びら瑠璃色の通り魔、雨の新宿御苑  


・生き生きと温もりありて瑠璃色の蜥蜴の子ども死にしばかりに


・居場所なき温もりのなき累卵の都会の危機は真珠抱くよう 


・いつ雨は濡らして降るの累代の永久の眠りに死者の眠りに  


・いつまでも泥濘(ぬかるみ)の中 流刑地の永遠(とことわ)の夢 死せるマンモス

・今を生きる泥濘のなか瑠璃鳥の透明の死は死よりも甘く  


・いままでの沼地に生まれた瑠璃色の鳥が探している死に場所はどこ  


・いつからか泥濘は消え瑠離色の鳥の飛翔を死が待っている







「カタカナ」


足跡をみんな消したら死にましょうマイマイツブリノヒカルアシアト 


シャアが撃つ致命傷部を避けて撃つメガ・バズーカ・ランチャーで撃つ 


ガザX光の中に消滅す 幾万の影ヒトガタノカゲ 


破壊者は優しい顔をしていますメロウなサウンド得意なミュージシャン  


クレッシェンド、デクレッシェンド、森の奥 野ばらは水を 眠れひととき


炎えんとし炎えざるものは生焼けのギュスターヴ・モローが描くサロメにも似る


グレゴール・ザムザが死ねばグレゴール・ザムザに似ている虫もまた死ぬ


カフカ作『断食芸人』の台詞<タベタイモノガナカッタダケデス>



アノヒトハイツモニコニコシテルケドタマニヤサグレタマニナキマス 








「ヒロシマノコトハヤムヲエナカッタ」と語りし天皇も逝きて八月 


『モシカシタラコノテデコロシタノカモシレナイ』などと思わずすめろぎゆえに 


しばらくは桜の夢を見たかしら桜伐られたラネ―フスカヤ夫人 


昨夜いいお芝居を観たらしい 幸福ファントム、「オペラ座の怪人」 


「ニンゲントシテモシンヨウデキナイ」と言われているよ夏の掲示板 


機関車は水を飲んでる機関区の給水基地で ユキドマリデス 


アクサンテギュ、アクサングレーブ、ウムラウト、アクサンシルコンフレクス、

アンダーライン、ピリオド 


『マルチニック島、蛇使い』「震えるピン」のアンドレ・ブルトン



<またそれは分散和音のようで窓から見る海の風景>
神々の黄昏、ジークフリート、鳥の歌 サウスカロライナでは聴かないな 



『偶然の音楽』からのファンなんだ エージェントには電話を入れて 


人生は意味を為さないナンセンス ミラ・ソルヴィ―ノの顔が貼られて 


熊笹の笹の葉みたいにあっさりと バッハ「シャコンヌ」のヴァイオリン 


【シーン、Z】レディ・イン・ザ・ダークのある意味じゃ最も小粋で大事な場面だ


「アンチェインド・メロディ」流れ時代は流れ優しい時間も流れていった 


遮光布使えば簡単にできるアラビアンナイト風ハードマスクで 


感情を見せて撮るなら二つだけ リアルの意味を教えてくれよ 


リアルなど後生大事にする人の似非宗教的スーパーリアリズム



オペラ座の梁で首吊る道化師は存在しないシネマ・パラダイス 



ギロチンに架けられているフランス王ルイ十六世の日記を愛す 


ゼフェッリの「空騒ぎ」とかP・ブルックの「真夏の夜の夢」軽い悲喜劇


ベルリンで面白いからブレヒトがオモシロイとは限らないだろ 



サポニンの血液サラサラにする効果 ホワイトアスパラガスの苦味成分


カメラマンが何か言っていたライティング効果がなんとか仁王立ちでさ



ケン・ヒル版「オペラ座の怪人」観てみたいロイド・ウエ―バー版には倦きたから 



「バロックは歪んだ真珠」三月の舞台 主催者は歪んだ春の震災の街



皇后は旅する皇后どこまでもこの世の外へ シシィの鴎



<狂気の王ルードヴィッヒは湖に 湖に霧たちこめている> 
双頭の鷲の紋章掲げてもハプスプルクの灯消える 



<ルドルフとマリー・ヴェッェラ 銃声が雪のマイヤーリンクに響き> 
美しいノイシュバンシュタイン城、白鳥城 バイエルン王ルードヴィッヒの夢の形象



<イザナギはヨモツシコメに追われたる ヨモツヒラサカ桃投げて去る> 
「ピラミッド・スフィンクスには秘密がある」おいてけぼりの砂漠の狐 


<カドモスを祖としラグダコス王家によって統治される古の夢ひらく王国> 

盲目のオイディプスが現れる従者にその手引かれ闇から 



<地二住マイ脚ノ数ノミ変化スル地ヲ這イ空飛ビ海オヨグスフィンクストハ如何ナルモノゾ>

スフィンクスの謎は解かれて都なるテバイは災厄より甦る









≪比喩と音楽≫





「華麗なるギャッツビー」そこに全身で優雅な破滅する人がいる 


その著書によればスコット・ジェラルド夫妻よりマーフィ夫妻こそ禁治産的 


才能もお金も浪費・乱費して一生パーティみたいに生きた 


真実の断片だけが残っている 存在すれば生きたことです 


作品の一つも世には評価されず 望みのままに遊び暮らした 


もしかするとそこはあなたの左耳 愉しい比喩や音楽のこと


ディアギレフがきっと嫌がる 最終の遊覧船の横波嫌う 



あの時代、のすたるじっくなあの時代 ハカナイユメのような時代だ 


スコットの妻のゼルダは美しい 一挙手一投足が芸術 



とはいってもゼルダは神経を病んでる 対岸で見る落日みたいに


落ちてゆく夕陽みたいにかなしくて 湖みたいにやさしかったね


『パーティのせいじゃないのよ お互いが好きだっただけ みんながみんな大好きだっただけ』


情熱を傾けていたジンセイにゲイジュツなんかじゃないジンセイに 


繊細な回転のよいその様子 一族だって徴みたいに


横着な反抗的な様子だが、ホントハタノシンデルンダその子供たちも 









<街角の海>




夏に降る雪のサティを聴いたのは昨日の私、海を見ていた  


もう一度海が見たくて故郷にジェームズ山の廃家見たくて



ドメスティックなる夕暮のP.T.S.D患者という女優の胸の赤トンボ


スッタニパータ 常に気をつけ空なりと世界を観ぜよ死も超えんため



宇宙蛇タラリトゥラリ真夜垂れて銀の小雨を降らす晩夏だ



炎には還元炎と中性炎 攻めの炎と守りの炎 


末裔を任じた人の愚かさに コノヨハスべテユメトオモッタ



雪よりも白い表象 あの人が書いた文様 地の果てのランプ 


夏燕その巣汚して何をしてひとの軒先借りる身の上



ヒグラシは遥か彼方の森に鳴く 此処で泣くのはヒト/マダラボケ


花の影、未来恐ろしと一茶いう 未来怖くて眠れぬという


異人館売られて屋根の風見鶏 ひとりぼっちでくるくるまわる


晴れた日に永遠が見え 曇る日に何が見ます 街角の海








【美女と野獣】 1 (自遊室)



偏頭痛起こるときにはわかるのよ眩しい光に包まれるから

遠い蝉鳴いてるこの世の果てに立つ一本の樹が落とす病葉

眠りすぎ?眠らなさすぎ?どちらでも冷たい水ね指がよろこぶ

左から稲妻が来て引き裂いて疼かせて去る脳葉の森

先生が処方を変えたらしくってノンダラネムクナルクスリデス

雪の日を思い出します雪の日の酸っぱいような痛さが来ます

鏡には何でも映る城館も空も湖もあなたの夢も


【美女と野獣】 2 (自遊室) 

もう私騙されないわ見せかけに 棘が刺さっている指見てる

美しい薔薇にも美しくない木にだって刺があること

さようなら私の地球、青い星 未来世紀にわたる虹立つ

この空の九億九千光年を 億光年の虹を渡るよ

さようなら手を振っているあの子はねポットにされた料理係さ

お城には何でもあった我儘な王子を愚かにするものならば

我儘な王子をとても甘やかし愚かにさせた家来たちもいた

王子さま野獣になった王子さま 優しい娘だけが救える

お城には何でもあった図書室も貝も名馬のたてがみ耀く琴も

崑崙の峰越えて来る風があり 西域を吹く青氷河の風 
 
地底瑚に棲む魚いつの頃よりか香木の森夢見て盲い

祝杯をあげよう君の新しい詩集のために宴開こう

もうやめよう涙も汗も嫌いだよ シーツに包んで棄てておしまい

鬱陶しい空も今月限りだよ 雨は絞って真夏の海へ

夕暮れの蝙蝠だれを探してる 行方不明の幼時の私

我儘も気ままもゆるしてくれたのは父さん母さん猫のガストン

いつかね いつかきっとね 捧げます 野獣になった王子のために

太陽が森の彼方のみずうみの透明な魚連れ出す頃さ

踊ろうよ歌おうよ遊ぼうよ生きている限り朝は来るから

読み書きも教わらないで育ったから全てが新鮮 伝説の王子

優しさが瞳の中にあるなんて湖よりも青いだなんて

怖かったあなたに逢えるそれまでの人の瞳は邪悪に見えて

だけどもう怖くないのさ瞳には優しさ、喜び、耀くひかり

「王子には読み書きよりも何よりも教えることが」マダム・ボンボン

恋すること愛することのよろこびを日が昇るとも日が沈むとも

王子様もう我儘はできませんよ いいんだベルがいるそれがすべてだ

魔女はもう森を出たんだ明日からは僕たちが陽で月になるんだ

「まだ森のあちらこちらに魔女がいて呪いが生きていて襲うだろう」

だとしても、もう恐れない 篝火を焚いて夜明けを待てば夜明けが

いつかは そういつかは そう信じて生きてきた いつかは・・・

未来って信じる心に生まれるよ そうだよ夜更けの森の梟

炯々と眼光らせ白梟 森の奥には野獣の王子

剥製の白鳥、螺鈿の琴、翡翠、碧玉、華麗な薄闇もあれ

現実さ、これは現実 存在は確かめなければ無いのだガストン

でも夢はこの現実の中にある それが解れば怖くないんだ

明日また君に逢えるね明日また秘密の森を探索しよう

お客様、ミセス・ポットやナプキンやみんなの心尽くしの馳走をどうぞ

哀れな奴、醜い奴と蔑まれ、悶え苦しみ王子は知った 

この世には大切なものがあることを それなしでは生きていけないものがあることを

見つけたよ たとえ醜く傷ついて病んでぼろぼろでも愛する愛を

そしてついに呪いは解けて我儘な王子は野獣の王子は 消えた






【思い出の時計】



・水よりも静かに時を刻む音、ユンハンス製目覚し時計  


・金属のベルトの一部が歪んでる鈍い光沢、遺品の時計  


・正確さ堅牢無比の野良時計、土佐の高知の安芸の村時計  


・しっかりと時を報せて眠るのだ 旧家の時計は止まれば終り  


・チクタクチクタク古時計、古さの中によさがありチクタクチクタク



・この町の七十軒の古時計 ネジ巻き屋さんに任されている  


・脚立持ち、修理具入れた鞄持ちネジ巻き歩く古時計の町  


・茴香のウヰのかなしみ禍事の砂時計の砂降り続くよう  


・宮殿のエカテリーナの孔雀時計 優雅な刻の証人でした  


・太陽の百億倍の超新星 ちぢみを解けば花びら宇宙 



・宇宙定数、その考えに誤りが アインシュタインの時の文字盤  


・古楽器や古時計には何があるの 永遠という涼しい時間  


・夢に来るあなたはいつでも悲しげでそれが何時でも気になっていた 


・からすなぜ鳴くのからすは山に かあさん烏が子を呼ぶ時計  


・やわらかなことばが響く夜がある 冷たい針のような月が出ている



・その時もう十分な古時計 終焉すらも知らぬ眠りに  


・気づかずに終ってしまっていたのだろう 逢魔が刻も二度と巡らず  


・突然にさよならは来て大時計 百年経った空洞に鳴れ  


・空洞に時は沈んでしまうから二度と鳴らない おじいさんの時計  


・えごの木やサモワールかもしれないね 私にとっての古時計って



・降り積もる雪より白い空白の領域に棲む獣かもしれない  


・階段や坂道の多い街だから酒蔵も多い町だったから  


・過ぎた日の後悔に似て海馬には沈澱してゆく時の残骸  


・思い出の回転木馬の遊園地、長針の馬と短針の驢馬  


・カリヨンの橋を渡れば見えてくる双瘤駱駝のような山並み




・寺院では鐘を鳴らしてその鐘の聞こえるまでの町を保存する  


・水時計、日時計、砂の時計あり 終身無言の歌を歌って  


・江戸の鐘、ノートルダムの鐘の音、川面に春を告げていた音  


・明治×年、形見の時計、懐中の銀の時計を遺し人逝く  


・その翌年鉄道が来て時計塔も建ち海辺の町は菜の花の春



・長屋門その片側は局舎になり時計塔から時報は町へ  


・ドクドクと流れています血の半身 出血多量の柱時計です  


・夕闇の蔵座敷には射の光 柱時計が鳴ったみたいです  


・もう既に死に絶えている血の系図 人気ない夜軋む秒針  


・お別れにもう一度だけゆっくりと螺旋階段上る日時計  







【最終バス】



・最終のバスは四時半 犬目宿本陣大黒柱の時計  

・塩山の甘草屋敷 銅葺きの大屋根 樹々に触れて行くバス

・遠ざかるバスが残した土埃 コスモス街道まだ日は暮れぬ

・追分を陣馬街道曲がり行く西多摩に入るボンネットバス

・猫バスもトトロの森も吹く風にセロ弾きのゴーシュにどうぞよろしく

・花遍路、遍路の道のバス停に夏越の祭の日程張られ 

・私の中にもバスが走ってる 最終バスかもしれないバスが


(関連旧作)


・ひとり出かける日の駅前に浩平の好きなボンネットバス

・犬目行きバスに揺られて四十分 君恋温泉今日は訪ねる  

・本陣の道を歩けば土埃 四方津へ降りる最終のバス  

・二本木行きバス終点のバス停の馬小屋の馬、留守番の馬  

・塩山の甘草屋敷 銅葺きの大屋根近く春の三日月 

・塩山は桃の花咲く桃源郷 大菩薩への道に陽あたる 

・「二本木」行き れんげ、菜の花、桃の花 麓を走る一本の道 





<やまかがし>





・道くんと裕子は一歳年違い 仲良く夕陽の庭で遊んだ


・道くんの兄の哲ちゃん階段の途中の穴から顔出した奇妙な蛇をやっつけた


・その蛇は黄色と黒の縞々でやまかがしだって誰かが言った


・沙織ちゃん武ちゃん姉弟も引っ越して来ていっとき賑やかだった


・引越しのその日は引越しトラックの後ろについて走っていたっけ


・あの日から何年みんな大人になりサラリーマンやOLになり


・もしかしたらあの街角であの道でローラースケートしている二人





<冬の甲虫> 



どうしてるどうしてますかあの人は 今年の春に逝ってしまった

あの古い家族写真のあの人の思い出したわ旧姓醍醐

そう醍醐 桜、桜の花吹雪 枝垂桜を見残して逝く

ロングアンドワイディングロード旅は終ったのねジョージ・ハリスン亡くなる 

エリナーリグビー、ペニーレイン、ガール また氷雨降る冬の甲虫 

西空に大きな月が今朝かかり聴こえてきたよ「サムシング」 

U2を聴いていた夜、BSの画面の向こうの闇のビートルズ 

海鳴りは遠い地の果て海の果て 地球は無事に回っているか 

しずかなるゆうすげびとは逝き秋は何事もなくすすきを揺らす

花の影、未来恐ろしと一茶言う 未来怖くて眠れぬと言う

異人館売られて屋根の風見鶏 ひとりぼっちでくるくるまわる

晴れた日に永遠が見え 曇る日に何が見ます 街角の海





【大切な一日】



レボリューション起こる起これば起こるなら 誰も緋文字の檄さえ書かず 

後の世の人には何と呼ばれよう 花火のような時代だとでも 

ビートルズ、ポールの百面相を見た あれは深夜の海外放送 

たいせつなあなたをなくしたあの日からたいせつな日がなくなりました

大切な一日のため雨よ降れ しずかにひらいてゆく花がある

大切な一日のため雨よ降れ 優しい雨にひらく雨の薔薇

お祖父さんの丹精の薔薇 その薔薇を抱いた娘の大切な一日

童謡や童話の中に身を隠すお月さまって羞ずかしがりや

忍冬、白から黄へと色変えて咲きつぐことに疲れたるらし

別世界ここにもあれど紫も源氏の君もいのちなきひと

この年の終わりの終わり極月のこころは空に紛れ消ぬべき

源氏が舞う 花の乱れの舞を舞う 雪月花、誰に散りゆく

カナダには雪が降るというバンクーバーはマイナス三度







【架橋駅】



パリ、モスクワ、フランクフルト凍てる朝 東京は降水確率3%

祝祭の季節が終わる木枯しが扉を叩く夕べの時間

燻製のサーモンの匂いが消えなくて どうしたらいい冬の香草

ひらり 蝶 ひらり ふわり と街川の 流れをこえて 春の野に出づ 

川沿いの道を歩けば見えてくる海の背中と白い帆船 

架橋駅その橋の下通る風 海辺の町の匂いしている 

夙川の堤防の道、香櫨園駅より海へ一本の道 

山肌は今にも赤く露出してこの街を呑むと断頭見せる

芦屋川、住吉川が氾濫し「細雪」にも書かれた洪水 

今はただ穏やかな顔見せいている濁流だった過去を消し去り







【湯の里】




湯村という温泉がある甲府の外れ 太宰冶が逗留したという

湯村という温泉がある鳥取の、夢千代日記の舞台と言われる

山梨の下部温泉 滞在し、傷を治して帰る人たち

川浦の湯は信玄の隠し湯と言われ湯治に猿も鹿も来る

有馬の湯 黄色くタオルを染めながら歌劇団の生徒さざめく

五箇荘 落人村の満月瑚 その傍らの薬袋温泉

奈良田には奈良田温泉、七不思議、石や烏が話を運ぶ

お天狗が攫って行った殿様の若君のほか入らぬ湯宿

砂糖菓子崩れる魂は濡れて 晴れた空から降る

角砂糖詰めても詰めても残るなら砕いてしまえとは言えませぬ





<空隙>



透明の硝子の壜のその隙間 愛の隙間と誰かに見られ

空間の隙間もそして時間という見えないものの隙間も抱く

虚数時間はるかに超えて生きている夢とリアルの狭間を生きる

人間が人間だったことなんて時の空隙 束の間の夢

ひとときの夢ゆえ人の美しさ 一挙手一投足も幻

明日また生きているなら逢えるなら そのディスタンス埋めて逢おうね

夜は闇 闇はあなたが支配する 時の狭間を流星一つ

空間にその空白に命の尾引いて流れて消えてゆく星

優しくてただ優しくて優しくて青い地球に花咲くように

極月のその半ば過ぎ降誕祭近づく夜を 夜の間隙を




<海の曲線>


タイタンは探査するともカッシーニ計画既に老いつつあらん

土星には土星の環があるように銀河は乳と蜜の河であるように

至福より未だ帰れず このまま死んでしまえば夢の波照間

せせらぎに大河に海に注ぐ川にブナの森から注ぐモルダウ

「太古の海」「盆の海」など話す時ジャック・マイヨール氏自殺の訃報

絵葉書のグラン・ブルーに百匹のイルカが描く海の曲線







<ロマンス>



一本の樹にとまる鳥 一枚の画布に描く空 その空の青 

森の香も清しき樫の木の舟も 二人の櫂も流されていた 

赤い月 鼓鳴る冬の公演の レダよあなたは官能の蛇

猫語など覚えてみてもしようがない 私の猫は死んでしまった

旋律ハソコデ膨ラミソコデ消エソコデ躓キソコデ泣クノダ 

ロマンスは秋の焚き火の火の色のあなたのためにだけ歌う歌 









<重力>



偶然と幸運に期待いたしましょうモンテカルロで確率上げよ 

オリーブもマングローブも関係ないマンデンブローならちょっとある 

楕円ゆえ二つの焦点持っている答えも二つ人生の法則

虚数から虚数へ飛んでいる蝶の青虫ゲンキ葉をタベツクス

ハレーション残して去った夕暮が線を消し去るそんな時間に 

サファイヤの瞳をした猫だヒマラヤン ロマンティックな夏のゆうぐれ

カビリアの深い谷間に咲く百合もセントへレナのナポレオンの薔薇も 

音楽と言葉について話すとき死んでもいいほどきれいな夕焼け

砂漠には深淵の井戸 重力の届かぬ井戸のランボーの詩 

単純さ貧者の武器で唯一の貴族よりなお貴族的なる方法 

夢想から生れるものは倦怠で倦怠からは殺意が生まれる 

或いはまた倦怠よりも実直な働き蟻の集団自殺 

夢に生き夢に死ぬって言ったって誰にもそんなことできないよ 

旅人は『旅の重さ』を読みました 遍路の旅は夢に死す旅 

秋風を今朝は感じる秋風の朝になったよ八月五日

そういえば七日は立秋 秋が来る暦の上にも 日暮しさみし





「 折句・雲の峰」(く・も・の・み・ね)



蜘蛛の峰、蜘蛛の巣森の蜘蛛の糸、野の蓑虫も涅槃に入りぬ

苦しんでもがいてのたうつ身があれど 涅槃の釈迦は菩提樹の下






【東京にて】(自遊室)

・薔薇色の東京湾の憂愁よ 空っ風吹く気荒な街よ  


・東京の一郭に住み東京を知らないでいる沿線暮らし  


・商店街、駅前通り、遊歩道、日々通る道に出会う人たち  


・境内の鳩に餌を撒くお婆さん八坂神社も杜の武蔵野  


・野火止のほとりに立てば鴨、子鷺、「江戸街道」に交叉する川


・季節には季節の花が咲く町のサルスベリ咲く夏の日想う


・素裸の木々は冬陽を浴びながら東京もいま春を待つ日々


・曇りなく晴れた東京 人工の渚に遊ぶヤドカリの群れ  


・蜘蛛の巣も蟻の巣もあり蜂の巣になるかもしれない東京に住む


・大風呂敷、後藤新平創る街、紫紺に濡れる東京の夜  


・地下街の果てもまた地下 東京は重深度地下迷宮の森


・円照寺、柏木右衛門佐頼季が拝領したれば右衛門桜 


・柏木は西新宿と改名し桜訪ねる人も少なく


・大江戸は「大江戸線」にのみ残り春曙の空に紛るる


・六本木麻布の高台、荷風氏の偏奇館なる住居もあった


・台東区入谷・千束、龍泉寺 樋口一葉住いした町


・菊坂町、龍泉寺町、大江戸の下町 井戸に清水湧く町


・大方は荒物雑貨、賃仕事、駄菓子商う一葉の家


・江戸の華 火事と喧嘩とお役者と、江戸の歌舞伎は都の桜


・桃山風、三層の屋根、木挽町歌舞伎座なれば銀座にも江戸


・六代目、十一代目、誰其れと、金春座など亦寄贈する勢い


・芝居茶屋、芝居神社も華やかに灯りを燈す遊べ楽鳴れ


・「今日は桜か明日は月か」「春は朧でご縁日」月を見、花を見、江戸の享楽





<夕光(かげ) >


・人間が怖くなることありません?私は今とても怖いの


・春真昼、他人が解らなくなって 旧友以外は怖くなってて


・もう誰も誰ともつきあいたくないと2002年春の思いに


・眩しくて明日の午後を見られない 逆光照らす古刹の仏


・観音寺、浄光心寺、西の海、紫雲出半島包む夕光(かげ)




<永遠>


・永遠をただ待つ亀がいてもいい セント・ジョージはガラパゴスで待つ  


・天蓋を支えて亀は永遠の孤独の賢者 風に吹かれて  


・海は待つ海底(うなぞこ)杳く藻のそよぐ竜宮の亀、浦島を待つ  


・紫雲出山、仁尾の海辺に佇めば太郎の亀も来る燧灘  


・海亀が卵を産むよ泣きながら潮騒が呼ぶ海へ帰るよ  


・浦島を乗せた海亀、月の夜 人魚と遊ぶ僕は海亀





<鯨>


・あぁ、鯨 鯨のように海に出て大海原の風になりたい


・日振り島、魚島、燧灘の島 鯨の泳ぐ海だった瀬戸内海


・鯛網の盛んな頃の燧灘 マッコウクジラもレイゴンもいた


・鯨獲る漁師の顔も輝いて鯨来る海、幸いの海  


・奉納の額に描かれた出漁図 海亀、スナメリ、銛で突く鯨


・その後の漁業衰退する海の遥か洋上鯨見る夢


・鯨には漁業探知機付けられて深海調査船の追跡受けて


・またいつか帰っておいでレイゴンと呼ばれたスナメリそして鯨も  


・鯨にもイルカにもある中枢を人間もまた持つということ


・発信は遥か南極凍る海 鯨の言葉は虹の変数


・海豚から鯨へ 今日も元気かい 南氷洋に星が墜ちたよ


・存在の中心地点であることに気づき始めた鯨が出てきた


・あるものは空に昇ってあるものは海に潜った 僕たち、鯨


・仲間たち海に潜った君たちが 鯨と呼ばれていることを知る


・研究の成果を語りあうように、マッコウクジラ挨拶をする


・観測船Uの船尾と船首にはゴンドウクジラ先導をする


・鯨骨や駱駝の骨で彫った亀・梟のその透かしの部分







<深海魚> 




・深海魚、春の渚に横たわる 渚の砂に葬られるという  


・先週は鯨が死んだ入り江があり海豚も死んだ 四月の渚


・さようなら黄金の月が出ています 春の渚の蛤、浅蜊


・平家蟹、怨み忘れぬ月の夜、凪渡る海、泣き砂の海


・船玉を祀った船の船尾にも魚群監視機みたいな鴎 

 
・春だから海は薔薇色、その空も水平線も幸福の色


・雪の道、海まで続く北国の海辺の藁や板覆いの小屋


・北国は雪と氷に閉ざされて 春待つという時化の海という


・瀬戸内のぽんぽん船はないけれど夕凪の海、金の巻き砂


・瀬戸内の海見る座敷、七卿を匿っていた離れの石蕗


・麦の穂が風にゆれている畑道 浅き鞍部に住む八百戸


・真浦港、尾浦港には繋留中の出航を待つ新造の船


・水仙の自生する谷、百合が端(はな)純友伝説百合若伝説


・いずこにも行けぬ心の吹き溜まり廊下の隅に乾く酸漿


・葉脈を血管走る酸漿を素枯れるままにおいて春も逝く


・藩支藩、〇〇高迪が三女佑子の輿入れの朝


・緋毛氈敷かれた道を導かれ 〇〇祐子十七歳の白無垢



・〇〇の娘の一人が嫁ぐ道 先祖に帰る婚と人は言う








<風車>




・仁尾の浜、太陽発電する浜に六基の風車、砂の描く波


・風車って私は大好きなんだけどどうしてなのかそれがわからない


・白い船見ていた岬 花が咲き風車が回る 最果てという


・風車まわるよまわる晩年の父の記憶の風車まわる


・その店の名前は「風車」阪急六甲の昔の駅舎降りてしばらく


・異邦人観光客の来る街の アンネ・フランク隠す屋根裏


・地の果てに回る風車は、まんまるのサンチョパンサが見上げる風車


・ナウシカの風の谷にもありました風車と緑の谷の伝説


・鳥の歌、風の心の草笛を鳴らして過ぎる風車の村で


・火蜥蜴の這う道を来る旅人の背に覗いている風車 


・風車といえばドンキホーテといえばサンチョパンサは怒るだろうか


・森の騎士、海の男に守られて風車の町は千年夢む


・太っちょのサンチョパンサが見上げてる青空そして風車の男  









<万華鏡>



・サングラス越しに見る時万華鏡みたいに吹雪く桜花びら


・倒される時に外したサングラス桜降る日の光の中に


・さくらにはさくらの理由あるらしく道避けて通る兄のサングラス


・その切手剥がれてしまう七桁区分機で 大事に選んだ記念の図柄


・特別な郵便物は手区分解束し切手剥落させないように  


・消印の切手の位置にも気をつけて高速回転する押印機  


・その町の局舎になった長屋門 入り口に立つまあるいポスト  


・代々の局長の趣味 鶴を飼う その鶴の絵の記念の切手


・負の遺産一掃すると親会社 切手市場に流れる噂    





<虫>




・この歌に続く歌など書けはしない こおろぎの声こおろぎの生

  
・井戸端にこおろぎ一匹鳴いていた 冷たい水はいつも湧いていた


・私が虫だったなら虫として虫の一生地道に生きて  


・でもきっと私は生意気な虫でキリギリスより惨めに終るよ


・気がついた頃には虫の一生は大方終っていたりして晩秋  


・飢餓線上這ってゆく虫一列になって冬へと向かって歩く


・五右衛門がとうとう捕まり行く河原 縄を打たれて馬の背に乗り







<てのひらの海>




・掌が海ならその手の線は海溝と言えるだろうか情深きその一族のDNA


・てのひらに海図描かれてあるならば見知らぬ海の底の遥けさ


・地図帳の夢のかけらのような虹 死の瞬間にまた見るという 


・翼のない天使が一人降り立って京都木屋町あたりを歩く  


・無力って言えば阿弥陀さまに願う他力本願の宗教思う  


・救済は仏が遣わす船に乗り 阿弥陀如来の西方浄土  


・艱難も辛苦も如何なる災いもすべてを祈りが救いに変えると  


・背景の山から射した西日受け開け放たれる寺院の蔀  


・後光射す仏三体、涅槃の釈迦、阿弥陀如来の来迎図絵も  


・自力といい他力というも同じ謂 自他一致して虚空の散華  


・畦道に蛙が鳴いて雨降って無力のおたまじゃくしが育つ  


・人間もおたまじゃくしが進化してこんなになったなれの果てかも  


・無力って宇宙の力に委ねきりまかせて生きる大きなチカラ


・焼け残る木仏の中に千躰の胎内仏を宿すみほとけ  



・わらわらと蠢き虫は夏の野に命の粒となって飛び出す  


・嫌われて愛されなくて虫たちはそれでも生きる 生きる虫けら


・いいえ虫さん虫さんを虫けらなんて言うヒトの傲慢


・青い空、青虫、虫は蝶になり夏の木蔭の花びらになる  


・春死ねば春の心に秋死ねば秋の心の私だろうか  


・逆縁もまた縁なれば親よりも子が先に行き幼きが老人よりも先逝くも春  


・不条理の隙間に鐘の音が聞こえ 諸行無常と聞こえる雨月







<冬の旋律>




・古ぼけた埃を被っているピアノおばあちゃんの形見ね 


・雨の日に聴こえる「モルダウ」をおばあちゃんはよく聴いていた


・子守唄聴いて育ったワインもある 勝沼葡萄郷の酒蔵


・草はらをそよがせて去る風のこと鎧戸の中聴こえるピアノ


・その人の「砂の器」が聴こえて来る 遠ざかりゆく冬の旋律


・夕ぐれはさびしく鐘のなるものを唱歌きこえる谷あいの町


・石段を上れば今もその人の「亡き王女のためのパヴァーヌ」が聴こえる


・夜明けまで待てない鳥は学校の森が抱く鳥、<ピアノの森>の


・結婚をしても持ってはいけなくて忘れられているピアノが歌う


・小学校唱歌、童謡、子守歌 夕焼け子焼けて帰る故郷


・夕食の支度しなければ こんな時突然聴きたいカザルスの「鳥の歌」 









 <驟雨>



・ぽっかりと虚しさ残る空洞の広さ深さのブラック・ホール


・夕立は来たらず父の背も見えず 驟雨の夏の記憶も去り


・こうしてまた一人置き去り鬼の子が 痛ましく生まれ痛ましく死んだ


・朝ぞらに紋白蝶の舞うを見し 六月の朝生まれざる夢


・誤解を受けることを何より恐れているそんな人だと私にわかる


・白い孔雀おまえのために雪よ降れ 雪が弔うまで待ちなさいハイエナ


・南天の赤い目をした兎にも見えるだろうか雪の結晶








【元気が出る歌詠草】2001/05/03




【二段飛びまではいかねど階段をゆく脚ぐんぐん今日元気なり 小島ゆかり】






<詠草>


今捕ってきたばっかりの海老や蛸 茹で上げている腕(かいな)たくましく 


熊にはねぇ滅多に会えないんだよって山の湯の宿の女あるじは 







「原人の海図」に寄せて2001.5.13





原人の故郷はない財もない 星の光を守護天使とする

 
海はゆめ、海はまぼろし、遥か見た星が頭上で瞬いている

 
丸木舟くりぬいてきた 精霊が風が私の背中を押すから

 
ブナの森、焚き火している原人の 歌垣つくるその歌垣を 




祥  * 『 毅 歌会 2 「原人の海図』 * 22:13 * comments(0) * trackbacks(0)
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