海の絵


















春の陽だまり




洞ノ原 環濠遺蹟、狼煙場、物見櫓も備えて妻木晩田遺蹟

水清く魚は旨し勇魚さえその地を慕う卑弥呼の邪馬台国

蝋梅の花を活けたよ蝋梅の匂いしている春の陽だまり

たましいを遊ばせている秋の風 木の葉さらって駆ける坂道

ミミズクが啼く駅裏の城山の紫の影のびて黄昏

「勝虫」と人に呼ばれて蜻蛉は武者の兜を飾りていたり

銀蜻蛉、透明な羽さしのべてあなたの肩に触れていきます









・木と蔦の緑の葉蔭、個人的儚い夢の徒然草を

・菜の花を月が見ている 春だから入り江に入るスナメリもいる

・菜の花を月が見ている春の宵 入り江の村の段々畑

・月の舟、二月の空を漕ぐ小舟 蓮華微笑の仏の小舟

・戦乱の夜の月光燦々と吉野三山熊野の仏

・千の眼と千の手をもつ観音の千夜一夜の夢に照る月

・「月」「月光」古き酒舗の酒蔵のラベルに浮かぶ春の夜の月

・ふと開くページにあった月の王 魔王は可愛い三月兎

・境界を越える冒険、境界を越えるリスクが分かつ満月

・花束は月光の夜届けられ 八墓村のような村の葬

・戦争へなだれていった月の夜 湾岸の橋カーブを描き

・火を盗み、月影盗み、時盗み、鼠小僧は江戸の盗賊

・見えざる手、月を掴んでもぎ取って砕いて作る春の晩餐

・私の名を呼ぶ声が遠ざかり月が覗いて心停止の母

・島蔭の海辺の墓地の枇杷の実は蜜柑色した夕月の孫

・涼やかな横顔見せてしろがねの宇宙船から見る青い月

・宿命に喘いでいた月、子を産んだ その子と踊るメフィストワルツ

・さよならと手を振っていた母だった 笑顔で終るなんて幸福

・七輪の炎で焼いた秋の味 まだ海色の瞳の秋刀魚

・五輪の書、五輪のマーク、五里霧中 突然降って湧いた悲しみ

・五つの輪めざして走ったフィールドのもうあっけない幕切れが見える





四重奏



ジャスミンはしずかに樹液搾られて滴る緑モロッコの夜

遥かなるイスカンダルの四重奏 手荷物は「アレキサンドリア・カルテット」

スカラベを「ラムセス2世」と名づけていた三谷幸喜の「HR」終る

ラムセスは眠るラムセス、 メンフィスは眠るエジプト最古の都

聖バルバラ、聖母教会 木製のドアもつカイロの美しい薔薇

鳩料理、美酒に酔いしれ喪った 時間の記憶失くしたカイロ

その街は驕りの街に非ずして太陽の裔、高貴の都

金色の海を見ている 鼻欠けのスフィンクスとファラオの砂漠

戯れに生きしにあらず恋も死もクレオパトラはエジプトの女王

ナミディアの王の爪切る幸せが永遠ならば眠れ砂漠に 

カイロにはカイロの薔薇がそして碧なすアレキサンドリア

〇光なす碧の海の真珠よりケケケと笑うブリキの玩具

星の精、砂漠の国に降りた裔 蛇、蟲、蝗、女王の猫   

スカーフを靡かせながら走らせる アスワンハイダムまで50キロ   

歓楽の都を過ぎて遡る水の上なる逸楽・豪奢   

夕陽浴び紅く染まった帆を張って風を孕んでナイルに浮かぶ   

河馬がいた動物園を知っている 母校の隣、王子公園   

文字の神トトの化身の置物が朱鷺と知らない 文字学ばねば






南国の雪





雪落ちる朝のしじまに雪とけて春の先触れ福寿草咲く

言葉にはあらざる言葉、梅一輪、小雪舞う日の小鷺の飛来

白々と川底見せていたりしが 堪えかねていま泥流の河  

ゆきまどう思いの果てのからっぽのてのひらに受く雪のひとひら 






蜃気楼




寒気団迫り来るころ魚捕る四万斗の霧凍るこの朝  

火を振って魚集めて漁れば魚は桜の色帯びて来る  

漁火の海があるから帰るべき海もあるべし空海の幼名は真魚 

海彦の裔にして婆沙羅の裔、海の彼方に立つ蜃気楼

水仙は春の香りの黄水仙 海を見ていた城の水仙






水仙



<究極の無機質>なんて言ってたね ハイエナも棲む風のサバンナ 

天空の窓にも降っていたかしら 飛び散っていた白い羽毛が  

廃園に増え続けている球根は石榴の実にも似ている水仙  

ひとひらの雪の白さの儚さにいつしか閉じてゆく花びらに  

幸福の第三楽章始まって水仙月に聴くコンサート  

谷保天神、座牛の頭を撫でていく風の行方は春の梅林  

亡くなったあの人が好きな紅梅が二月の雪の晴れ間に咲いた

電子体、光体X、私が思ったことが在ったそのこと 







朝霧





天界につづく階段のぼる霧、朝霧の道帰りゆくひと  

白鳥の湖沼に羽をたたむとき大菩薩には冬の三日月  

富士を見る水晶渓に立つ濃霧 帰ることなき兄たちがいた  

遺された箪笥の中の義母が抱く姉・弟の戦地への写真

禁足は解かれているか期間限定だったかどうか

千人の交響曲をどこで聴くワームホールのその中できく

胡弓の音ながれるおはらの「風の盆」見知らぬ人の流れに入る  

降り沈み降り積む歌のなきがらのやさしきかたち 毬藻さゆらぐ

大食・強欲・怠惰・高慢・肉欲・嫉妬・憤怒、七つの大罪の

ましてエホバを信じないこと   

汚れない瞳の赤ん坊みたい 冬青空は無垢の青空  

くたくたになった手袋くたくたになった男を入れて地吹雪  






月光公園





瑠離色の硝子を抱いた舟がありあなたを連れてゆくよ銀河へ

貝殻に残っているのは海の傷 巻貝がつつむ青い潮騒  

残された日々にころがる林檎酒も杏酒もありスミレ養護園  

ブランコは月光が好き月光の公園通りに降るさくら花  

谷渡る翡翠の風が見えたなら千年桜の吹雪も下る  

冬薔薇(そうび)咲く庭かげの子守歌 罪を隠している夢の青

瑠璃、カケス、雀、蜂の子、七つの子 冬の木立も夕焼け小焼け

今更に虚空に放つ矢もあらず 魔弾の射手ともなれず黄昏  

嘴太の嘴赤く染めながら何を漁って一夜の鷹よ  

鳥ならば、ましてこの世の鷹ならば巷に餌を漁るなかれ  

ままごとの木の葉木の実のご馳走を夕陽が染める夢から醒める  

賀状無く迎える知友また一人 寒中お見舞い申し上げます 

半分は一気に越えよ不完全なりとも遂げよ仕事であれば

葉書を書け時を守って場を清め礼を尽くして短歌を止めよ

「絶対に小言を言うな愛語あれ 錐→微笑なれ」森信三氏












物として物の形として残る三段式マホガニーの本箱

1907年製の湯沸かしと、くるくる引き出す硝子戸の本箱

胡桃には胡桃の色がマホガニーにはマホガニー色

for give me 心から アンナ・カレーニナ 赦し乞うとき

ようこそ、ご精が出ますねと挨拶だけは慎重である

気にしない気にしなくても生きられた 若い日だけの贅沢として

出奔をする時アンナはアンナになる 雪の鉄路の死体にもなる

運河にはベネチアの夢 宮殿を夢みただろう商人の夢

再会は炎の恋の終る時 小競り合いから始まる亀裂

『ベネチアの冬はさびしい それにロシアが恋しいの』アンナの恋の終末である

おとといの雪が微かに残っている おとといの雪はふたりで見ました






落葉の楽譜





嘆かずよ 春の死者への子守うた 時のしじまにねむれと歌う

私がもしも海月になったなら遊びに行こう 月が輝く

くれなずむ街には臙脂色の葉も紅い木の実も 落葉の楽譜 

透明なコップの向こうに見えていた「虹のしっぽ」が消えた瞬間

灰色のカモメが舳先にとまりますシシィあなたの鴎に似ている

滅茶苦茶にかなしい気分そんな気分なんて言葉に出来る歌なんてないよね

「焦れったい」?そんな言葉じゃ間に合わない 酵母菌には酵母のこども

ゆっくりと歩調を合わせて歩いていくペンギンたちとはここでさよなら

砕け散る氷の音が聴こえたらマンモス蘇生したと思おう

待っています日が暮れた門開けています 古い詩型のような灯






モンゴルの風





蹄鉄の無き馬いかに野を奔り駆けてゆくらむ モンゴルの風

シュワシュワ たてがみも尾も黒き馬 風をさらって東洋の馬  

雨乞いの黒馬、晴れ願う白馬 祈願の絵馬は日の国の馬

草原の露をはらってギャロップで駆ける童子の綱とる仔馬

西域の風になったという話 行方不明の友がいたこと  

こんなにも破綻が見えて来ているのか 一切の夜が明けるというのに

湖の岸に沈んだ葦舟も鴛の浮き巣も降る雨の中

争いの尽きたる無音 月光の射す畳の目一つ毎のさびしさ 







風塵





火の色をみつめていると火のいろのなつかしさ火の色の心 

元気出せ夢を見る見果てぬ夢♪土の中から声が聴こえる太陽の子どもたち♪

ドングリは落葉の布団にくるまれて眠っています春はまだです 

一巻の笛は小枝と名づけられ 小枝はチョコに名を冠したる

化野(あだしの)の野仏、無縁仏たち 白き背を見せ帰る月影

満月の夜のドラキュラ呼び出せば去年死んだと答える樫の木

こんなにも乖離している心だと知らず応(いら)えず下弦の月に

ここにある悲しい気分の水たまり 極月なれば映す裸木






星の砂 (「Re 月馬むーんほーす」)





舌あれるほど食したる蝶・葉虫 蝦蟇も蝸牛も篭もれる枯葉

磁気嵐すぎゆく月の砂漠にも月の仔馬や兎が眠る

流されて流れて待てば億年の氷河の底に眠るマンモス

潮の海 でいだらぼっち身を浸す 肘・膝、擦ってゆく鮫・鯨

銀青の燐粉散らし甍越え 水惑星をこえてゆく蝶

宙をゆく風の帆舟や月の馬 虚空の底に湧く星の砂







遊戯抄





雨、灯り、藍、赤とんぼ、アイボリー アクサンテギュ、秋、哀愁の赤

いじめとか意地悪だとか意見とか意味と遺恨と今時の意趣

<「う」は既にあるから飛ばす鵜飼いの「う」兎追うとも鰻は追うな>

ウロンスキー、麗しの国、梅もどき ウの字があって嬉しいじゃない

エゴ、エデン、エキス、エーテル、永遠の、絵本、絵葉書、絵空事の「え」

絵馬、えびす、烏帽子、えんどう豆の「え」は絵巻、縁切り、会者定離の「え」

小倉山、鸚鵡、オーボエ、尾羽、鴛鴦 老いらく、鬼火、温情の「お」が

柿の種、萱釣草に蛙の子 カの字があって可愛いじゃない

雉、汽船、貴婦人、木靴、九官鳥 木苺熟れて気散じな「き」を

鬼面組、奇妙奇天烈、鬼子母神 気障と気楽の気さくな「き」の字

水鶏、蜘蛛、鯨、クマノミ、孔雀の「く」倶梨伽羅紋紋、黒髪の櫛

芥子、化粧、蹴鞠、鶏頭 煙の「け」 血統、結末、計算の「け」が

コウノトリ、格子天井、黄金虫 蝙蝠、胡弓、虎視眈々と「こ」が

沙羅の木も寒さも酒もサがついてさらさらさやぐ淋しさのサが

シクラメン・紫苑・白菊・秋海棠シがついている萎れそうなシが

鮨、簾、すすき、巣穴のスズメバチ、双六上がる朱雀大路で

スルタンの剣はトプカピ宮殿に天皇(すめろぎ)の剣は熱田の杜に

スルタンにも天皇(すめらぎ)にもスがついてストロー、スードラ、すかんぽのスが

酢牡蛎にも鮨にも簾や双六にもスがついている すれっからしのスが

戦争も赤貧にもセキセイインコにもにもセがついているセクシーなセが

<良妻なおもて往生す いわんや悪妻をや>

漱石にもソクラテスにも妻がいた 相思相愛・添い遂げるソが

組織にも蕎麦にも謗られ鴉にもソがついているそれだけのソが

狸にもタワケ者にも田螺にもタがついている黄昏のタが

父親も稚児にも地図にもチがついて血で血を洗う血だらけのチが

蔓草も月にも鶴にもツがついてつくづく悲し強がりのツが

天気にも鉄にもテニスや天狗にもテがついているテロリストのテが

鶏冠(とさか)にも鳶にも溶けたトマトにもトがついているとんでもないトが

懐かしい名前長崎、奈良、難波 なんで泣きやる清十郎の夏は

懐かしい名前七草、奈良なずな、長屋王(ながやのおおきみ)、情け深い「な」が

菜っ葉にも茄子にも奈良の都にもナがついているなけなしのナが

鰊にも楡にもニューロン、ニュートリノにもニがついている煮詰まったニが

塗り絵にも糠にも鵺にも縫い子にもヌがついている濡れそぼるヌが

眠りにも猫にも熱にもネットにもネがついているネガティブなネが

野いちごも農夫も野ばらも農村もノがついている濃縮のノが

ハーブにも春にも刷毛にも鋏にもハがついているハレーションのハが

蹄にも彼岸桜や柄杓にもヒがついている暇人のヒが

風味にも笛にも風呂にも不安にもフがついている不可思議なフが

へちまにも蛇にも塀にも兵士にもヘがついているへなへなのヘが

帆舟にも捕虫網にも頬髭にもホがついている頬染めるホが

マントにもマンドリンにもマがついて眩しい窓の卍を染めて

ミントにも弥勒菩薩もミがついて幸福祈るミンミンゼミのミ

みちのくの道のみどろの水の道 みみずくなけばみみずくの夜

虚しさも無限も虫もムがついて無視できなくて難しいムが

名門も明治もメロンもメがついて滅茶矢鱈と迷惑なメが

モモンガもモラルも樅もモがついてもう騙されないもっと文字化け

やくざにも屋形船にも刃にも「や」がついているやさぐれの「や」が

夕顔も夢追い人も夕映えもユの字がついて幽霊のユが

夜烏も夜露も夜明けもヨがついて夜に隠れて夜を盗むヨが

喇叭にも雷神像にもラがついてラッキョウのラがさびしがってる

林檎にも綸子や栗鼠にもリがあって凛々しい人のリであれと思う

ルドンにはルドンの薔薇があるようにルシファー愛でる瑠璃の花びら

歴史にもレジスタンスにもレがあってレースのような冷酷なレが

ローマにも蝋にも老婆の背中にも「ろ」がついているろくでなしの「ろ」が 

輪と輪と輪どこまでいけば輪が果てる輪の字を解けば侘しいのワか

猥褻も笑いも悪(わる)も病葉も若衆、若様、若旦那の「わ」

ザリガニもザラメもザルもザグレブも、ってなんだっけザグレブ クロアチア?

<陀羅尼助 和漢の妙薬修験者の傷病癒す生薬という>

「だ」の次はどこへ行くのと陀羅尼助 抱っこ駄駄っ子抱いて参ろう

バイソンも薔薇や獏にもバがついて薔薇の実薔薇の棘に膿む傷

バケツにもバロンを名乗る馬鈴薯にも「ば」がついている薔薇色の「ば」が

んわわわあんとわーむほーるのうつそみのくらがりひことあをよぶなゆめ  

んとこしょどっこいしょって んと重い石はこぶ運命の「ん」  








翁 草





現在形でなければ意味がない ヒマラヤシーダの実も落ちている



日常はただ平穏に過ぎればよく その他に何も希みはなく



じゃあねまた あなたに任せましたから 風に吹かれてゆく翁草



武蔵野の狐は貂ではないのだし 時々は恋う速野の桜



疲れたね疲労困憊してきたね 熱もってくる腫れるリンパ腺



風邪ひきの狐はそろそろやすみましょう武蔵野にももう冬の木枯し



冬鳥が南へ向かう風の道 島々に鳥 島々に花



海知らぬ都のひとの戯れ言に海の下にも木賊唐草



めひかりが珊瑚の林泳ぐからそよと風吹け砂巻きながら







遠 野




岩手県江刺市威武師字菊池 物語りせよ吹雪やむまで

遠野には座敷わらしが出るそうな座敷わらしは福呼ぶそうな

西さ行っても父さいね東さ行っても母さいね 此処さおいでとおがさの囲炉裏 







蛍の木





数千の蛍が宿る木の話 ガダルカナルの、サイパン島の

真珠より小さく青く光る星 蛍集まる木があるという

人肉を食した兵士もいたという「命(めい)ニヨリ生キ命(めい)ニヨリ死ス」

岸壁に砕ける波に向かい立つバンザイクリフ投身の海

生きる道途絶える崖に吹く風のバンザイクリフ戦場の果て

「愛情の花咲く樹」という映画があり「蛍の木」というドキュメントもあり

焼夷弾、原爆、椰子の実、蛍の木 昨日毀れたTVで見たもの






NO5





その香りシャネルNO5 養護施設部屋番号のNO5



縁取りの繊細な線、シルエット 20世紀の残像一つ



誰かが一人傷ついて誰かも一人傷ついてそれでもmmmm歌う蜂鳥



半日を晒されているされこうべ ふたたびは見ず七界の虹



完全な決裂という瓦解音 地球の裏側までの高温



豚饅は一貫楼に第一楼 南京街の乳白の靄








落蝉





とこうして獄門晒し首の刑 「ごろごろ水」は天川の水

都人、時の執権その人の意に逆らえばかくなる仕置き

吉野郷、天川村の「ごろごろ」と名づけられたる秋の名水

たかだかと思えどススキ、女郎花、秋の饗宴 離れて紫苑

消え果てむ去年のいくさに 蛍火の鬼灯(ほおずき)ともる背戸の竹山

いにしえの道を辿れば海も見え 高凪という凪の瀬戸内

敷石の道をたどれば鬱蒼と幽冥き森の茅の輪、流鏑馬






晩 秋





夕空に棉の実はじけ弾かれてまた逢うために零れるその実

斑猫の火のない心連れてゆく

猫族の習性かしら爪研いでジャンプしようとしているresolution 

また明日 そうね明日があったなら 日溜りと思った陽炎

しんしんと更けてゆくから秋の夜は火を懐に入れる 雉猫

どうしてる老犬、月の輪熊のような犬 死の翳さえも照らす優しさ

何事もないかのように陽は沈み陽は昇る 富士は薄雪

突風が吹き荒れたこと雷が鳴り続けたこと 夜半の夢に

居並んで帰朝会見 少しだけたどたどしくて少しだけ宙に浮かんで

水盤に真紅の薔薇を浮かばせて魚の眠りのような一日

うれしげに青磁の海に溺れゆく魚とも見える雨とも見える

緑釉に元気な兎走るからきっと明日はよいことがある 

白釉の小さな壷を手にのせてつつんでみれば温もりの朝 

古備前は深夜ひそかに鳴るという 満身創痍の備前の壷が

いにしえの青磁の海に泳ぐ魚 神無月という陽のやわらかさ

白磁の壷、住吉川の水乾き鰯雲湧く秋空の下 

白磁壷、気品に溢れ涼しげに 異郷の秋の紅葉の中 

いずこにもいずこの空の真下にも悲惨があること白磁は茲に 

秋川のメダカは今日も空の青、山の緑の碧の川に

秋川に堰を作った石の堰 ウグイやハヤを囲っておいた

夕空に浮かぶ満月 さざなみの海辺の村の砂糖黍畑

<台湾に近い日本の最南端与那国島の放牧の馬>

シュワシュワと馬はギャロップ黄金の砂糖黍畑を渡る海風

重量は風の疾風になったはず日月の冠マストにあれば

沈む舟 炎えあがる舟、神無月 天地離れていくショー・ボート

山ほどの退屈、山ほどの無聊 椿一輪ほどの薄闇

絶望の痕跡残し去っていく蜘蛛の銀糸の透明となる

モドキといい隠れと呼ばれ生きるもの 儚さ宿す裔にして稀種






白ふくろう





なぜこんなにさびしいのですか 鼬(いたち)だったらわかりますか



なぜこんなにさびしいのですか 白ふくろうにはわかりませんか



なぜこんなにさびしいのですか 面ふくろうって可笑しいですね



なぜこんなにさびしいのですか なぜ教会の屋根裏が好きなのですか



なぜこんなにさびしいのですか とうとう鷹と争ったのですか



なぜこんなにさびしいのですか もう夏は終ったって知っていますか






氷塊





どんなにでも冷たいものは生まれます 氷塊一つ夏の彫刻



人の顔人の声して火喰鳥 火を放ちゆく微かに燃える



夜の闇に流れて溶けてゆくコーダ セルゲイ・ラフマニノフの終曲



「休止符の時にも歌え」アルトゥール・トスカニーニのレッスンその1



楽譜集燃やしてあがる炎がある また夏が来る海岸倉庫



かなしみに色も形もあるのなら今どんな形をしているのだろう



赤と黒『尼僧と枢機卿』に見る欲望、卑屈、哀願の顔



クリムトのエゴン・シーレの血で描いた退廃ゆえに血の薔薇の空






夕 月





バルセロナ、サグラダ・ファミリア教会の尖塔の穂の穂の上の青



遊園地回って帰るライナーの先頭車両の向こうで花火



五月頃、薔薇展だってあったのに四月の桜も見たはずなのに



黒山羊が覗いているってお隣の森には狼さんが棲むって



黒山羊や銀狼と会ったのは生木裂くような明方の森



予感する破滅もあれば予感すら叶わぬときの挫滅も一瞬



日の出から日没までの空想のブランコはねて夕月浮かぶ







イエティ





淡々とこのかなしみに堪えること イエティの棲むネパールの空



大きな大きなイブキの木 貝塚伊吹の雪男という



そういえばユウマのママはどうしてる? 女優だったね擦れた声の



アシベにはいつ頃さようならをして芥子の思い出ヒマラヤの芥子



明け方の大学構内歩く時 ヒマラヤ杉がピラミッドに見え



薔薇色の空をバックに立っているヒマラヤシーダの大きな影が



シャドウとかシルエットとか好きだから いつか消えても影になっても



足跡は氷河の壁に残された恐竜X ぼくの友だち



捜しても見つからないって知っている雪の陽だまりから消えたきみ



人里に近づいたとき聞こえたね きみのきらいな雪崩の音も



ヒマラヤの水に雪(すす)がれ氷より透明な色、欠片の形



淋しくてひとりぼっちで悲しくて ヒマラヤシーダの枝走る栗鼠



雪だるま スノウマンにも春は来て 溶けてしまった夢の紫



そんなにも羞ずかしがりやのきみだから残して帰る 春のヒマラヤ



ふかふかの綿毛の中の小さくてやさしい瞳 きみの青空



桃色のてのひらにただひとひらの茉莉花にぎって息絶えていた



薔薇、水仙、ジャスミン香る春の夜 月光降りて蘇る花







美濃太のロース





火の罠も水音もない陥牢も忘れぬ人の幻のため



見憶えがあると思ったそのわけを教えてくれる伽羅香る森



無位無官、世に用の無き災いに知のみに生きる薔薇色の蛇



見憶えはこの薔薇色の蛇にして石棺守る女王の蛇



知に遊び知に背かれてスフィンクス王墓の側にありて眠らず



序幕から終章までを 石柱の青空までも届く劇場



終楽章どこで聞いたか失楽園 そういえば観客のいない劇場



瞳には愛と憎しみ紫の水晶煙る花もあること



凝血の肉塊などは食べませぬ 行列嫌う菜食主義者



夢を喰う獏より獏は夢殺し出血多量の美濃太のロース



香辛料たくさんたくさんふりかけて召し上がるがよい××のスープ







リラの向こうに





雨の日は川にも見える坂道は ヒマラヤシーダとリラの向こうね



南側の窓の向こうに木が繁り リラが咲くという四月の真昼



いつまでもどこかでみつめているような母と祖母がいた 今もそこにいるの?



合法的脱出をしたのね透明なある日世界の隙間を抜けて



帰るべき家も故郷もないという 川遡る鮭にない自由さに



最後に望むこと一つ私に目覚めることのない死をどうぞって嘘



秒針があなたを支配しない場所 涼しい心だけが待つ場所



天空に満ちている黄金 秋だから木の葉のように心も染まる



いつだってどこだっていい何でもいい生きていようね美しい秋






僕たち順番に





新しい時代の夕陽眺めたら僕たち順番に死ぬんだね



北向きの角の部屋から見えたんだ君が立っていた夕陽の屋上



静脈が透けていたから簡単に点滴の針刺せる腕でした



逢いたくて逢えない人に逢う時は終りから始まる歌聴きながら行く



骨格も脳梁までも似ていたが兄と私は異母兄妹です



草笛の上手な兄は笹舟を折って夕陽の川へ流した



川面がゆれ風が通って行くように兄の額が微かに触れる



陽が翳り日没までのひとときの河原の石の水光る隙間



流星の見える空間 白樺の林を抜けて近づく湖面



山荘の石段のぼる坂道は蝉の抜け殻みたいな小径



草原をそよがせて去る風のこと鎧戸の中聴こえるピアノ



木々の中、木々の谷間を風渡り 蝶が通って行く道がある



その人の「愛のテーマ」と「砂の城」遠ざかりゆく春の旋律



尖塔に夕陽が落ちてその町の時計台から飛び立つカラス







八坂交叉点





ゆっくりとぶらぶらとふらふらとそんな烏がいた八坂交叉点



烏のくせに烏らしくない千鳥足 車に轢かれそうになっていた



今日はいったいどんな日だったのだろう半分は眠っていたけれど



夜明けが見えたり日没だったり不安が心を翳めたりどうしていいかわからなかったり



風景が遠く見えたり灰色の石膏色の街に見えたり



ヒメダカを家人が10匹貰ってきて放す川底の砂と砂色



なんだかね淋しい気がして歌でもない歌にもならない字を打っている






墓標





殆どもうお終いと思うのは頤や顎、涼しげな項などのせい  



湖のほとりを車が去って行く 電話している横顔がある  



もう一歩車が岸に近づけば記憶に残る最後の場面



知らないでいるのはいつも一人だけ鴉が運ぶ巣の枝一枝  



鬱兆す雨期の森には幽かながら杳い遥かな麝香の匂い 



海に立つ波の墓標が虹を呼ぶ 滴く屍や座礁する船













桃の花 その桃色の明るさに雪洞燈すその悲しみに



バロックとジャズと小さな映画館「五人の週末」なんて見ていた



不可思議の時間生きれば見知らない私がいてあなたにも会う



沈丁花、鈴蘭、水仙、雪柳、桃の節句に近い春の日



春の夜の夢ばかりなる手枕のざぁざぁ降りを歩むザリガニ



鮮やかに心ほどけてジャカランダ 花祭り冬去れば春



渦巻いているね世界がゆっくりと流れるように死んでゆくのか






春の鬱熱





退屈が極まり発する鬱熱を発しています春の鬱熱



梅が咲き、雪柳が咲き、桜が咲き、咲く花の下 鬱々と猫



猫族の猫であるから春来れば花と遊んでいたいそれだけ



草いきれ噎せかえるまで獰猛なオナモミ僕にくっついて来る



川岸にメダカ集まる石の淵 手を出してみる燿めく水に



白い鳥どこから来たの河原にはもう白い鳥ほかにいないよ



鴨ならば小鴨親鴨水の上 水は川水菜の花の岸



夕ぐれはやさしく町を包むから帰っておいで鶴来、この町






黄昏の雨





降る雨に閉じ込められてみたいのに春の嵐が吹きすぎるだけ



もう誰も来ないと知って月が出る月は十六夜お湿りがほしい



雨降らぬ三月である菜種梅雨 今頃どこにいるの<前線>



夢でいいもう一度だけ黄昏の春の優しい雨であること



風の日は思い出すだろつむじ風「突然炎の如く」のラスト



夜の風朧の月を吹きすぎて艀溜まりの波となるまで



水面には燿めく風の置き土産カモメの好きな海のきらきら



いつかこの風になる日のそのための青夕焼けの満ちる空洞






「作者への手紙に代えて」




Qさんへ

<この町のたった一つの映画館> 驟雨の秋が来るね明日にも



H・Kさんへ

回転も自転も自由自在です六羽のカモメ遊ぶモビール



K・Aさんへ

怖るべき子供たちって言われたよ 真夏の雲を見ていただけさ



Rさんへ

レクイエム聴こえて愛の第二章 ページに挿む木の葉の栞 



居場所などどこにもないかもしれなくて でも生きてゆく私の蝸牛



Eさんへ

擦れ違う人群れすべて老いていて石膏色の街に佇む



恐竜の博物館の火の蜥蜴 大観覧車まわる八月



Fさんへ

人間が去り動物たちが去り 水惑星に降る雪がある



ほんとうにきれいな雪の消えるまで火の鳥の卵包む火口湖



M(A・H)さんへ

「之を育てるや春の如し」井上靖氏のエッセイに見る直角双曲線



森の抱く鳥囀れば逢いたくてまた来る春の桜はなびら



A・Kさんへ

もう一度最後に逢った虹を見る その虹の手に抱(いだ)かれる夢



骨が好き淋しい時に触る骨 兎跳ぶのよいいえ飛ぶのよ



Aさんへ

<天心の帆>        

弥勒菩薩・千手観音・阿修羅像 稚き仏師の微笑を写す



秋来れば水の卵を産む鳥の天心に帆を浮かべる海の



弥勒には継がれたその背と脊髄が 仏師の指の脂も吸って



一切の衆生の祈り生と死の歓喜究めて弥勒の微笑



ゆれる火の炎の中のかなしみの天心の帆の影もゆれるよ



ぽっかりと虚しさ残る空洞の広さ深さのブラック・ホール




Sさんへ

<夏の絵葉書>

青色のインク滲めば海色のイルカが泳ぐ夏の絵葉書



逢うために越えた青空、越えた海 風切り羽も汚れてしまう



永遠に越えて行けない海の青あなたが待っている宙の青



いつか風、いつか暗闇吹く風に告げてください待っていますと



太陽が水平線に沈むから 今炎えさかる舟があるから



夜空には北を示して輝いてあなたを待っている星がある



雑踏の巷に帰る朱の鳥を火の鳥と知る 風、つむじ風







H・Kさんへ



<地平線> 



おお、何と牧歌的でもありましてプラネタリウムの星空に逢う 



そしてまたモグロのような男いて制服警官であったりする



いつだって夢は儚く消えるもの彗星よりも短い一世



そうですね。やっと来ましたアリゾナへ 砂漠に薔薇はお似合いですね 



でもそれは喩え話だと思っていた みんな実話と知らなかったの



あまりにも変な時には言えないよ 少しだったら言えたかもしれない



削っても削れないから生きている骨から腐る醜いものは

 

置き去りの悲しみだけが記憶なら夕焼け空はかなしみの色



水脈のはつかに触れて別れ際 再び雨の街となる頃



流星雨 プラネタリウムの地平線 最後の星が去ってゆく夏



水晶の舟を浮かべてその街のシェルターを開け迎えに行くよ 



暗闇に舟を浮かべて眠るから この心音は漣の音



ここまでは誰も追っては来ないけれど透明の灰降りつづく海

 

断片も欠片も浮かべ流れゆく 夜の河には夜のゆりかご 



映写機も観客席も壊されて 跡地は無人駐車場です 



意味もなく殺されるのが人生と不条理とはナンセンスだと 



光りながら回りながら近づいて最終回の字幕は消えた 



ラ・シャマード 敗北の太鼓が鳴っている この夕焼けに乾杯しない?







ガロとTさんの「水色の世界」に




水色の世界始まる朝靄のあなたが帰る海辺のテラス



あの長い葦簾の陰に眠ってる朽木色した揺り椅子にいる



天国にいいえあなたのいるところ夜明けの海の青を見ている



どこでもないその水色の世界ならあなた自身の祈りの形



かもめ飛ぶ空と海とのあわいには薔薇色の陽が沈んでゆきます



レコードの傷にあなたの青春が疼いています羞しい傷が



ひとりには決してしない約束は忘れていないでも一人でいくよ



あの日はもう帰らない♪ いつだって終ることない旅の途中さ



夏の日が再びめぐる彗星がまたあの人を連れて去る夏



ジャケットに三人見える 眼差しの深い人から死は来るという



「一枚の楽譜」をあなたが聴いている 夜明けがきっと始まっている



優しさがレフレインする切なさがリフレインするガラス越しの雨



懐かしい人になったの?僕たちは 窓一杯の夕映えの中



死の意匠、死の刻印を逃れて来てべムとべラがいる夜の公園



亡くなって浸潤していた潰瘍が摘出されて知った病歴



薄ら氷の燿めく双つの谷間にも涙の乳や香油零れる



歌うギター語るヴォーカルそれぞれに螺鈿・虎目のギター抱えて



ウィッシュボーン・アッシュ「光なき世界」僕たち時を越えて逢ってる



「今週も悪いニュースからお伝えしなければなりません」『土曜の夜と日曜の朝』



タンポポの綿毛が飛んで来た町の ここまでが街ここからが海



もうお終いお終いだから帰りなさい野外音楽堂の噴水の虹



胡弓にも笙にも聴こえるタクラマカン砂漠を渡る風の野生馬、鬣、蹄



朝には戻れるだろう誘われて迷子になった遠いサヨナラ



そしてまたあなたの声の漣を行きつ戻りつ漂いながら



音楽はジムノペディに変るから希臘の空の青い蝙蝠



石ころが岬へ続く古い城 その岬から海を見る墓地



石柱と石の廊下の行く先の古城の広間開け放つ風



陽盛りの石像の影、甲冑の、副葬品の、それぞれに影



もう言わないもうさよならも永遠もいつ終ってもいい優しい時間



海の風 朝に夕なに水色の風が吹くから生きているから



そういえばガロってどんな意味だったの? 未明の海の底の透明



あの日確かにあなたたちがいてあの日確かに私がいた 水色の世界








(返歌)Tさんへ




年下の異母兄弟の双子くんお元気ですか いたらよかった



想像の中の二人がもしいたら可愛いいだろうな双子の弟



さみしさが夕焼けを呼び鳴きながら山へ帰ってゆく烏を呼び



いつか逢う双子の弟 双子星 双子座生まれのあの人のため



≪理科室の血管クン≫によろしくね夕日が照らす窓を見ていたら



放課後の校舎に残る究極の涼しさに似て愛(かな)しみに似て



人体の模型も蝶の標本も一糸纏わぬ半身像も



生きてゆくことに適合しなくてもそこにいるだけだっていいから



≪理科室の血管クン≫の恋人は音楽室から聴こえるmelody



一日に一度放課後逢うような切なく遠い夕陽見ていた







(返歌)Rさんへ



1



黄色には何を感じる?フランシス ピアニストはどこにいるかと



青い色は精神の色 色彩の交響楽の中の一音



見ていると構図の中に見えるのは混沌に似た調和の幻想



何処にも隙間はあらず 気が一杯 緊張感に充ちた野放図



夕空と無花果持った少年と墓地のくさはら見ている烏



調声を無視して始まる12音 コンポジションLあるいはZ



珈琲の香りは多分テキサスとグァテマラに吹く風が運ぶよ



水棲人、木棲人の洞の奥瞼開かぬ魚や蜂の子



月光の射し入る井戸に浮かぶ影 無数の蝶の白き投身



小海線野辺山駅に降り立てば 海抜表示する天文台



ニュートンの林檎と天球儀の関係 知っているのは2年3組




2




山梨の月の雫という菓子はやさしくとけるブランデー菓子



≪シャーレの夕焼け≫色の雲のなか星の子どもが這い這いしていた



七色の金米糖の星だからもうすぐ終る薔薇も萎れる



火の鳥に似ている白色矮星をティコブラーエに教えてあげる



マクノート超新星の毒蜘蛛が接触したのは青い新星



ニュートリノ翡翠のような鳥になり突き抜けてゆく神岡鉱山



玉葱のような重力崩壊を説明したら星の一生








飛べない鳥





飛べない鳥と誰かが言った 飛びたくなかった火の鳥、朱雀



遠い島八重山群島亜熱帯降雨樹林のヤンバルクイナ



この島に咲いている花 この島の他には命育たない稀種



類稀れ、その稀少さに惹かれゆきその身その種も絶滅種となる



その花の光集めて桃色の微かに透けて揺れている卵



ヌレエフとプリセツカヤの赤い月 「レダ」は二人の残した手紙



官能の蛇が月夜に舞踏する「ボレロ」もう戦争は終ったかしら



さびしくてたまらないから逢いに来てマイアサウラの木霊する声



また明日夜間飛行機飛び立つよ サン=テグジュペリの郵便飛行機








<2002,ワールドカップの歌>




シディ・ブ・サイド美しい街の褐色のキック 梅雨の日本に



離れたくないから一緒に行くという台詞と決勝戦のベッカム



虹色のシャワーを見たよ校庭でサッカー部員が水撒くホース



オヤジ狩り、浮浪者狩りと狩り尽くしラストシュートは自分のヘッド



スタジアムの青がどよめく青がゆれ青が気流になって飽和す



ジャパンブルーもう一枚のパスポート みんな一緒が好きだってチャチャチャ 



突き抜ける青を知らない私は青のかなしみ知らない私



そこだけに静寂がある 終了のホイッスル鳴る時のカーン氏



ENDING ゴールポストに寄りかかるカーンの表情 中継終る



淡々と凭れるカーンの表情を見せてゆっくりVideoは切れる



イングランドが途中敗退スルユエニ「決勝戦のべッカム」はナカッタ。。



「九州は激しい雨」 梅雨の日本を離れる選手






子はグレー孫はアルビノ




子はグレー孫はアルビノ遺伝子の表現形式、検定交雑



「詩経」「楚辞」そしてそれから始まった律詩、絶句と古詩の流れは



定型と自由詩分かれてゆく時の 五言絶句と七言絶句



律詩には五言律詩の対句あり押韻ありて漢詩月韻






8月6日





天空になき暗黒の雨降る1945年8月6日



もう秋か八月七日立秋の前日寒暖計が汗をかいてる



青い闇 帰らぬ時の青い闇 誰も彼もみな死んでしまった



ただ一人残された人 残された故郷の家の戦争の影



塩、砂糖、讃岐三白永年の田地経営無駄な歳月



腑抜けとも愚か者とも旅行記の独逸、伊太利亜、長い空白



鵞鳥より暢気な当主、落魄も知らずに遊ぶ稚気のみの医師



やがて消えやがて総べては洪水の去った後より跡形もなく






〈残暑見舞〉




武田氏の躑躅が崎の城館の流されスワンと呼ぶ瘤白鳥

甲府市の武田通りの梨大のその正門の傍の舅の家

プールにはまだ夏休みの学生が泳ぎに来ますか蝉はうるさいですか

お盆にはお墓参りに帰ります山の家の方に直接行きます

茶畑の生垣の中の花野菜、今年は無事に育ったでしょうか

筧から引いた清水で淹れた御茶楽しみなんです抹茶が特に

裏山の茗荷も破竹も猪に 胡桃や茸もやられましたか

帰りには甲府の家にも寄ってみます巨峰も梨も見事でしょうか

菜園の隅の鶏小屋その網の真ん中にある貝殻は何

おまじない?鶏が食べるの貝殻を大きな貝の虹色の光り

腹這って兎を見ていた幼稚園児 金魚鉢にはその子のメダカ






退屈





退屈が歌を生むけれど歌がまた退屈を生むどうすればいい



蔓薔薇がまた咲きました白い薔薇二度目の夏を迎えています



午後三時時間凍結されていてブバリア開き切って充血



茗荷、紫蘇、シシトウ熟れてムラサキシキブ実に変る晩夏



夏越えて激しく痩せて死期近い終焉近い原生花園



猟銃を暴発させるような秋 禁猟区なお殺むる死体






日の宮





藤壺の宮は輝く日の宮と呼ばれ源氏の君の母に似ていた



その花のムラサキシキブは好きだけど 紫式部はちょっと意地悪



中宮定子、コウロホウノユキの人、とっても素敵な人だったはず



多分多分舌禍の嵐の人だったでしょう 清少納言は式部から見ると



五月雨の晴れ間に訪ね物語る〈花散る里〉は巻の拾壱



それなのに淋しがる私がいて私を裏切る 



探したらきっと逢えるよ離れても月夜の海に遊ぶスナメリ



いつだって喧嘩のできない一人っ子 兄弟喧嘩も知らず育って



吹っ切れた顔をしていた爽やかな声が聞こえた 理由とルールが






黄色いレインコート





雨の日のレインコートの思い出は黄色いレインコートの思い出



手をつなぎ階段降りて国立のノイ・フランクやサンジェルマンへ



一ツ橋大学通りでお買い物 紀ノ国屋さんや銀杏書房



雨の日のお買い物には自転車が使えないから雨のお散歩






回転木馬





荷風が愛し乱歩が愛し茉莉さんが愛し 回転木馬まわる浅草 



花筏、葉に実を乗せる花筏 飛蝗も蜻蛉も乗せておくれよ



今朝の空気の中に薄がゆれる大きな橡の樹がその中に一本



背景と余白のバランスが気圧だって言ってるTVの写真家

   

風景を切り取りなさいというけれど、どこかで聞いた話に似ている



サンカヨウ、一本蕨、ツルシキネ 怪人二十面相の夢



光りより闇を闇の帳を 帳を開く屋根裏の散歩者を






雨 期





殆どもうお終いと思うのは頤や顎、涼しげな項などのせい  



湖のほとりを車が去って行く電話している女主人公  



もう一歩車が岸に近づけば「突然炎の如く」の最後の情景



知らないでいるのはいつも一人だけ鴉が運ぶ巣の枝一枝  



鬱兆す雨期の森には幽かながら杳い遥かな麝香の匂い 



海に立つ波の墓標が虹を呼ぶ 滴く屍や座礁する船



いつだって薙ぎ倒されて焼け爛れ気化する25387649  



私もまたその一人かもしれずあなたもそうかもしれない形で 

 

誰のせいでもなく生きて何のためでもなく死んだ蟋蟀よりもひとりぼっちで  



闇の中ともす心の灯火のゆれながらゆく精霊流し  



それでもなお優しさよりも大切なものはないよと弥勒の微笑  



一輪の薔薇の花さえ汲み上げるいのちの水が渾身あがる  



百合の茎まっすぐ昇る真水あり ブナの森なれば水の合唱   



夜の河浮いて流れてゆくものを海に出るまで見つづける月  



それそこに生まれて生きて死に果てて果てるまで光昏き遊星  



水無月の池水濁り亀のみが甲羅干す正午 読経流れ来る



一度きりの人生だから見ている雨の薔薇 霧雨煙る五月の朝  



今朝咲いた梅花ウツギの純白の鮮やかなれば 友の誕生日   



釜茹でになった石川五右衛門あるいは藤丸籠の石川五右衛門












夏の闇 眠気は脂肪の過剰から ロシアでは橇が雪を巻き走る



ガリラヤの湖の黄昏 基督の魚数多降る夏の雪降る



塩の湖、死の湖、いのち生まれる湖 ヒマラヤの雪砂上を奔る



禁断の神を祀れば水濁る 和邇の神のみ隠岐の和邇族






北の薔薇





『安南の人は子供を沢山産む。』「佛印」からの叔父さんの葉書  



『道路には子供の遊ぶ声がして家の中では母親が子を叱る声がする。』  



「北の薔薇』チェンマイ、美しい町の黄昏の橋渡る列車で  



水田と小川と風にゆれる芭蕉 家鴨が歩く村「北の薔薇」  



外に出てふーらりふらり散歩する芭蕉がゆれる緑と水を  



小川には影が映っておりました鳥がゆっくり飛んだらしくて  



夜明けには鶏、アヒル、鴨の声 霧が流れて始まる朝  



人間の側面描けば人間の欲望生まれ育つプロセス  



村人と猫と犬数匹が蝋燭と花を捧げる灯の村の祭  



マルグリット・デュラスのそしてカトリーヌ・ドヌーヴの『太平洋の防波堤』インドシナ






密林の雨





密林の雨に打たれている芭蕉 田中一村の芭蕉の葉っぱ   



竹とんぼ、紙飛行機を飛ばしている少年がいた夕陽の岸辺



忘れていた薔薇の蕾を見るために歳月はあり大河流れる



モルダウは流れる合唱も聞こえるヴルダヴァ、エルベ、森の国の河



ブナの森、ヴルダヴァ、エルベ、凍る海 雪も流れて言葉も消えて



せせらぎに大河に海に注ぐ川にブナの森から注ぐモルダウ





  

黄昏に飛び立つというミネルヴァの梟を見た月下の都



べネチアの空虚、歓喜の絶頂に弔いの鐘鳴り渡る午後  



夜の森、梟の目の光るとき吟遊詩人迎える水辺  



詩人なら外交官ならスパイなら宮廷に咲く恋手折るまで  



黄昏のひとときの恋重ね来て世界は未だ明けやらぬ夢  



月の乱、太陽の縛、カサノバのいのち病むとき夢のゴンドラ  



空にある月こそ吟遊詩人にて漣にゆれきみに随う  







残酷な気配リュックに忍ばせて夜の散歩の堕天使二人  



日曜の午後の木洩れ日 設定は二匹の山羊の愛の交歓  



丸文字の昔の少女葱刻み豆腐、納豆、オクラの朝食  



三十年経ったら会おうまたの世でうたたねの時過ぎても夢路  



安定に向かう天気図見せながらミサイル「ガズナビ」「シャヒーン」の実験  



緊迫が常態としてあるゆえに精悍な顔見せるアフガン  



大量の破壊兵器の拡散を黄砂舞うころ憂う青鷹  



空の鬱 霰降りつつ消えるなら夏は再び清きもの降る









不況の町




街角の海見る煉瓦の会館の小窓から見る海岸通り  



また行けば解体される店舗あり海岸通りの午後の散歩道  



平成の不況とどまる感もなく失った日のアンシャンレジーム  



看板の消えて夜来るシャッターの降りて夜来るゴーストタウン  



黄昏の街に浮浪者ふえてきてパルチザンにもなれざる我ら



夕食の支度しなければ こんな時突然聴きたいカザルスの「鳥の歌」






夏の栞





郷愁は危険な薔薇の棘かしら 私を刺す病む薔薇の棘 



石をもて去りゆく人を追うような文が続いて水無月の雨



一度だけ破ってしまうかもしれない「悲の器」にはしない約束



大連から届いた本に挿まれた栞一葉、涼しい栞



白光の束が空から届いたら何か異変があるといいます



薄青い鳥の刻印標されて封印された夏の消息



消印は午前零時の冷めた顔 秋の長雨そんな一日



前日に食べた手紙の白い束 消化できない山羊の「ヤギハシ」



手紙には優しい愛の花言葉 ヒマラヤに咲く芥子の便箋



アドレスは確かでしょうかキカイにも難なく文字は読めるでしょうか



殆どもうお終いと思うのは頤や顎、涼しげな項などのせい



カーネーション炎に灼かれるような恋 六月の雨水面を走る







引越しの邪魔になるから退きなさいトラックがもう出るから、ラーラ  



引越しはこれが最後になるなんて誰が決めるの綿毛飛ぶ春  



トラックを追って走った道くんとロンが見送る鉄路のほとり  



国立の三角屋根の後にも卒塔婆のような灰色のビル  



ロータリー見下ろす画廊に見る漆器 水盤に浮く睡蓮の花









ここにいるよ発見してっていうように痕跡残す犯人の指  



その人もまた孤独ならただ一人地図のない旅しているのなら  



地図もなく方位磁石もない旅を続けて遥か星だけを見て  



百合が咲き水仙が咲く断崖のせり上がりゆく波の先端 








何事もなく過ぎたわけじゃない何事もない毎日を望んだ狐



失ったものは言葉や物じゃない燃えていたのは火鼠の皮衣



ガンダーラ、ガンダーラと今歌うあれはタケカワユキヒデの声







失われた時を求めて彷徨えば森蔭に湧く燿めく泉  



失った時を隠した井戸があり井戸の底には光る月影  



失った時を求めて彷徨ってたどりついたらゼウスの泉  



泉には聖水が湧き森蔭にニンフやすらうゼウスの娘たち  



空き地には蛇苺熟れ三輪車漕ぐ幼子の足も見えてくる



牧草の花咲く頃に北限の荒野に忘れ去られたように



ホテイアオイは水鉢の中、水鉢の中にはメダカと斑の金魚



そうしてもうだんだん用心深くなり心を誰にも打ち明けなくなり






遥かで杳くてやさしいものに





遥かで杳くてやさしいものにいつか逢えると思っていたが



初夏の朝は薄紫の悲しみに浸されていることに気づいたりする



東京は雨 紫陽花の芽もふくらんで雨季近い川のせせらぎの音



リンパ腺、耳下腺腫れて五月闇 灯ともし頃は鬱兆す頃



木は眠り木は育つ霧の森木の海は遥かな心育てて眠る  



何かが終る時の音聞こえて来たよ雨ですね今日



静脈の青く浮くより採血の痕のみ見えて明日も暖春



異次元の入り口だったかもしれない 朧月夜の桜咲く道 



私たちはいったいどうなってゆくのだろうか もう真っ暗かもしれない明日



ためつすがめつしているうちに一本の樹になってしまえり翠の桜






イクパスイ





空想と空想むすぶ接点に空の巣があり燕やすらう  



イクパスイ彫刻された木の意匠 道南十二の館の出土品 



吹雪く城 蝦夷の地に立つ城ゆえに年貢納める米倉を持たず



交易の商品あれば石高に換算すれば無限の富を積む



弁財船、北前船の航路から引き揚げてくる数多の賜物



異文化と異種交易の接点に蝦夷の夕焼け落日の海







ブナにはなおブナだけに付く蜂もいてブナの森から湧き出る光



ブナに付くブナアオシャチホコぶなだけに頼って生きるブナアオシャチホコ







旧暦の七夕ことしは八月十五日 織姫・彦星あい逢う銀河  



七夕の天の川には月の舟 天に浮かんだ夢見るカヌー






風の終章





露草が路傍に咲いて露の青ドクダミの白シャガの紫



愛の通夜さみどりの通夜もう誰も愛を無理やり殺しはしない  



レクイエム聴こえて愛の第二章 ページに挿む木の葉の栞



アダージョが流れる海辺 廃船と水平線に溶ける太陽



瞬いて消える夜明けの星たちのさよならだった風の終章



虐待も閉じこもりもある支配者も被支配者もいる緑陰のZoo  



欲望も怠惰も希望も忘却もすべてまとめて今日の青空



夕焼けと雑木林と降る木の実 もう帰れない烏のお宿 



ここにいるよ発見してっていうように痕跡残す犯人の指  



その人もまた孤独ならただ一人地図のない旅しているのなら  



地図もなく方位磁石もない旅を続けて遥か星だけを見て  



百合が咲き水仙が咲く断崖のせり上がりゆく波の先端  



何事もなく過ぎたわけじゃない何ごともない毎日を望んだ狐



失ったものは言葉や物じゃない燃えていたのは火鼠の皮衣







ゼウスの娘




失われた時を求めて彷徨えば森蔭に湧く燿めく泉  



失った時を隠した井戸があり井戸の底には光る月影  



失った時を求めて彷徨ってたどりついたらゼウスの泉  



泉には聖水が湧き森蔭にニンフやすらうゼウスの娘たち






夕光(かげ)





人間が怖くなることありません?私は今とても怖いの



春真昼、他人が解らなくなって 旧友以外は怖くなってて



もう誰も誰ともつきあいたくないと2002年春の思いに



眩しくて明日の午後を見られない 逆光照らす古刹の仏



観音寺、浄光心寺、西の海、紫雲出半島包む夕光(かげ)





水 鉢





睡蓮とウォーター・レタス浮かべている水鉢、金魚もメダカも泳ぐ



じゃがいもや竹のこ満載して帰る田舎の畑の遠距離農夫



イノシシがトマト畑を荒らすから金網めぐらせ囲って来たと



庭先まで山あじさいの藍色に煙って見えた雨の坂道



通り雨、霧が昇れば座敷まで霧這いのぼる山霧の里



鹿に会い、ハクビャクシンに遇う林道 木のトンネルを抜ければ峠



峠から見れば本栖湖から登る富士山頂にかかる月



流れ星、流れて消えて流星群、あなたの住んでいる町に降る





<プサイにファイ、プサイにファイ♪>シュレディンガーのシュレねこは

イキテイルノカシンデイルノカ



盆踊りは苦手なんですでも誰か踊って下さい太鼓打ちます













異次元は四海の果てにあらずして此処にあるよと樹の根の洞が



立ち上がることが出来ない立ち上がるためには何がいるの 立てない



雨といふ嵐ともいふ『くれないのニ尺伸びたる薔薇の芽の』 雨



心萎え心いざりて雨の日の蝸牛より鈍き想いに



雨よ雨 いつかは降れよ 激しくも優しくも降れ 雨月小夜嵐



虚無という言葉ではない 立ち止まらず立ち止まることなく歩け



皮膚一枚、心一個の重さにも足りず 言の葉、木の葉 言の葉、木の葉






祥  * 『海の絵』(フリー:インターネット) * 17:18 * - * -
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