〈短歌紹介〉 

 

・目に見えぬ絶望小さく折り畳み何もなかつたやうに歩き出す

 

・生きのいい命を油で揚げてゐる生きろ生きろ生きろ蝉鳴く

 

 

        築林歌子 「晩年」『玲瓏』93号

 

 

・中上健次の最大の才能はその出自なりと柄谷行人言い切りにける

 

        浅利瑞穂 「謎の白昼」『玲瓏』94号

 

 

・これがさいごの春であっても指切りをしようわたしはわたしの歌と

 

        佐藤弓生 「誰も見てない」『短歌研究』4月号

 

 

祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 11:56 * comments(0) * trackbacks(0)

「蜘蛛の糸」かもしれないね。『手紙、栞を添えて」を再読。

 生きる根拠。

精神的共同体。


祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 20:56 * comments(0) * trackbacks(0)

『短歌研究』9月号 (短歌研究賞&短歌研究新人賞発表号)


『短歌研究新人賞』が発表されている。

受賞作(「父親のような雨に打たれて」)
と、次席2篇&候補作6篇を読んだ。

候補作の 「雷を鳴らさない」/松尾唯花 
だけがいいと思った。
後はみんなドロドロした感じがする。

 夕立が来そうだねって母からのメール まもなく夕立が来る   松尾唯花

時代は隔てているが、
サガンの『悲しみよこんにちは』を思わせる。

この人は、自分の言葉で歌っている。
自分の感性で書いている。
それが清々しい。




あと、今月の『短歌研究』の「短歌時評」
澤村斉美〈不謹慎の文学〉
が、とても良かった。
祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 18:57 * comments(0) * trackbacks(0)

喜多昭夫 少年詩篇『デュナンの休日』&短歌雑誌『つばさ』

・新しい歌読むことの幸福をしばらく忘れていたと思うよ

・モノクロの口絵の写真〈高校三年生の頃〉詩集『デュナンの休日』の扉をひらく

・《祈念のためのエチュード》が最後にある 死者たちと深く「息を合わせ」て

・短歌雑誌『つばさ』「黒崎恵未の世界」を特集する

・小島なお、野口あや子の名も見える 「ガールズ・ポエトリーの現在」を探る

・巻頭は、岡井隆氏の招待作品 鴎外の『於母影』(鷗外)または〈静〉

・ある意味で百花繚乱 岡井氏は鷗外の〈於母影〉に遊ぶ

・鷗外も岡井氏も「一介の歌人」にはあらぬ 愁い勝るとも

・せめて過ぎ行きは石見の人のごとく風雪に凛としてあれ

・春の夜の夢は幻 いつか見し虹も幻 荒野を駆ける馬の数頭

・風切って走る少年ある時は 日本海が育てた町の


祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 21:33 * comments(0) * trackbacks(0)

私の好きな歌/あの世まで誘ってゆく歌一首選ぶとなればこの歌の他になく

紅梅をもったときからきみはもう李氏朝鮮の使者なのである  / 久木田真紀




美しい歌は魂を浄化する。
どんな醜い心も、胸に吹く嵐も、すべて消し去る。
歌には何の現実的力もないが、他の力が何の意味も持たなくなるようなとき、
忽然と姿を現して、風のように吹きすぎるもの。
そしてその一陣の風が去ったあと、跡形もなく憎しみや
愚かしい心の戦場は消えている。



歌っている対象は現代の、一人なのだが、
朝鮮通信使の行列が目に浮かぶ。
そのように作られている。
「紅梅」、「李氏朝鮮」
語彙の照応が、美しく華やかな彼の国の宮廷文化を鮮やかに浮かびあがらせ、
朝鮮通信使の行列が、陽光溢れる瀬戸内、旧い港町である鞆や牛窓を通り、
賑わう大阪、京都、名古屋、さらに賑わう江戸へ、絢爛とした日光へと通って行った街道沿いの風景をも思い起こさせる。




祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 04:16 * comments(2) * trackbacks(0)

『短歌研究』2月号より     川野里子/遠来

応接室にしばしを独り 正解をさがすごと選ぶ母の死に方

延命装置「しない」に丸をつけてをり寒雲ひとつわが上に浮かび

人体は止むことのなき吹雪なり気管切開「する」に丸せり

歩けぬ老母は置き去りにしてゆくべきかゆくべきならむある段差にて

わが裡のしづかなる津波てんでんこおかあさんごめん、手を離します

わが家がいいやつぱり我が家が一番、と言はなくなりぬ老母の何かが

ベッドがひとつ便器がひとつ陽当たりの良き部屋ここに母は捨つべし

ああここが閻浮樹の下か背負ひ来し母を捨ててもよきひとところ

髪切つてもらひし母は素直なり河童のやうにたのしくなりて

ノックする音してをりぬひつそりと人生ならぶ廊下がありぬ

手摺りに縋りゆつくりと歩みゆく母はやがて吾なり吾が彼方なり

母よりはわれがわれよりは子が生き残るべきなり白き椿は咲きて





『短歌研究』2月号の川野里子さんの「遠来」30首
より引用させていただきました。
重いテーマと作家の力量が拮抗して、感慨深い30首となっています。

祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 21:08 * comments(0) * trackbacks(0)

浅利瑞穂『キャラミティ・タウン』

 キャラミティ・タウン    浅利瑞穂

気が付けば枕許を水が流れいて不審に思い起き出ずる夜

水の神は玄関よりは出でまさで奥座敷より不意に現わる

体不自由な姉を水から抱き起す ずしりと重きは命の重み

冷蔵庫がポカリポカリと炊事場に浮ぶを眺めて術なかりけり

泥流に脚踏み入れし人ありて慌てて飛び出す豪雨の夜更け

ソージ機もガスレンジもパソコンも水に浸かりて用をなさざり

冠水の家財道具の展示品 目抜き通りをところ狭しと

水にふやけし遺体に掌をば合わせりと銭湯の客のダミ声聞こゆ

死者の名を紙面で見つけ過ぎゆきの言葉の端々思い出しいる

原始人の生活なり台風十二号襲来以後のわが家の日々は

災厄の家でメガネや腕時計、帽子や手帳がするかくれんぼ

キャラミティ・タウンで続く立ち話、ためらう事なく夕陽は沈む

阪神が勝っているなり水害の後片付けの途次ふと耳にする

水の神がさらいゆきたる魂に祈りを捧ぐ長月九月

断水用に湧き水一缶差入れて呉れにし友も疲れおりにき



災害の多かった年も、もうすぐ暮れる。
後ひと月あまり。

浅利瑞穂さんは、和歌山県新宮市に住み、
台風12号の水害に遭った。
地元紙に掲載されたという「キャラミティ・タウン」。
許可を得てUPさせていただく。

体験した人でなければ分からない水の怖さ。
不意に水がしのびよっていた、
目覚めると、水が枕許を這っていたという。

エラリー・クイーンの『Calamity Town』に題を得たのだろうか、
目覚めれば、まさに「災厄の町」と化したわが町が、
そこにあったのだろう。
床下まではあっても、まさか、床上浸水し、
冷蔵庫がプカプカと浮いて漂うとは、
排水路も整った市街地が水浸しになるとは、
予想だにしなかったろう。

それが、、悪夢ではなく、ある日、現実となっていた。
平凡な日常が、非日常に変わり、
昨日まで言葉を交わしていた人が遺体となり、
見馴れた街角に、浸水した家財が山と積まれる。
パソコンも通信機器も水没し、
片付けようにも掃除機も、用を為さない。



水はどこで生まれたのか、
ひたひたと音もなく迫り、
今もどこかで水嵩を増している。

祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 21:37 * comments(2) * trackbacks(0)

『短歌現代』三月号 波汐國芳さんの歌 /「姥貝の歌」

・風ありてのうぜんかずらの揺るるたび炎のごときが移る危うさ

・プルサーマル阻止の集いに遠尾根の溶岩流をみちびきゆくも  

・原発の汚染ひたひた寄る波に笠女郎の恋も侵すか

・古里の荒磯(ありそ)はドラム 原発へひた打ちざまに鳴りやまぬなり

・強震に原発狭間(はざま)の海が揺る 光こぼれんまでに揺るるも

・原発が在る浜に住む君想い強震のたび波立つこころ

・原発の温排水を入れゆくに逆波立てて海遠退(とおの)けり


        「短歌現代』2011年3月号「姥貝の歌」25首より

祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 23:07 * comments(2) * trackbacks(0)

今日の歌

 ・短歌詠むは生き甲斐なるやと尋ねられ息抜きなりと答えけるかも/浅利瑞穂

 『短歌研究』2010年5月号「短歌研究詠草」馬場あき子選 佳作欄より

*                     

浅利瑞穂さんは「短歌人」所属、和歌山県在住の歌人。
『短歌研究』の「短歌研究詠草」にも淡々と出詠しつづけている。
世に出る前の中上健次氏とも親交のあった人。
短歌は、身の内に宿った楽器のように、常に鳴り続けている人、
なかなかに複雑な味わいのある「けるかも」だ。

祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 09:55 * comments(0) * trackbacks(0)

『月鞠』第8号 /辰巳泰子編集・発行 



月鞠(げっきゅう)
2010年3月10日発行(年2回不定期刊)
頒価1000円



・何憎まれしゆゑにか葉書ひとひらのかく簡便な別離たまはる

・意気地なくうつむき川を見降ろせば何がゐるかと浮浪児の問ふ

・この川にふとりし鯉のをりたるを浮浪児に告げ見上ぐ対岸

・対岸にピラカンサの赤ひしめけり小春は滲む用水路の景

・浮浪児ら毛布かぶりてひるを眠る小春は夜の疾うから寒く

・飄飄とゆけ浮浪児のこころもてどの空とてもつながりてあれ

・どれひとつおんなじ色に咲かなくて秋あさがほの枯るいつしらに

・夜は黒 笑はぬ猫を抱きて黒 落し物せし入江が深い



    辰巳泰子 百首歌 かはせみ より





「どの空とてもつながりてあれ」というフレーズが美しい。

祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 19:29 * comments(2) * trackbacks(0)
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