銀河最終便
WEB日記

晩年 / 『玲瓏』98号                 

 

 

 

・炎と蛾 火に入るときは死の時と知るや知らずや炎と遊ぶ

 

・災厄が身をつつむとき災厄は己自身と、炎となって

 

・あくまでも元気で生きていくばかり 濁り湯に花は今日も浮かんで

 

・薔薇色の海を見ていた日のX のちに来る日をまだ知らずして

 

 ・プログラム変更するも追いつかず花の乱あり風に散りゆく

 

・いずこにも希望の園は無きものを活発となる老健市場

 

・朦朧と夢から醒めて一葉の葉書の青はヒマラヤの芥子

 

・毎日が遺言であり遺書でありそのようにして人の晩年

 

・生け簀には尾ひれ千切れて泳ぐ魚 鰓のみでなお泳ぐ危うさ

 

・汚れて生き汚れて死ぬをさだめとし地蔵の首に朱の涎掛け

 

 

 

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『チェロという名の猫』玲瓏97号(2018.3月号)/祥                 

【チェロという名の猫】

 

・チェロという名の猫は樽の上 「世界ネコ歩き」で岩合さんに紹介されている

 

・葡萄畑の中を歩いている 呼びかけられれば返事をしながら

 

・葡萄畑の中をゆっくりパトロール 灰色カンガルーと朝のご挨拶

 

・白い猫 白い猫には気品がある 路面電車の通る道筋

 

・アトリエと猫と回廊、円形の窓枠 絵筆が差してある透明の壜

 

・その次の猫は「デューク」というらしい 遊び場は映画館であるらしい

 

・旧い町並みに似合った古い映画館 男優、女優、猫のデュークも

 

・上映が終われば猫を撫でていく観客がいて絨毯の猫

 

 

・お次は香港、薄茶の猫 仲よしの猫は遠慮がちの三毛

 

・漁師さんが作った発砲スチロールの神棚に鎮座している猫と神さま

 

・背景は香港島の高層ビル群で 猫の棲み処は長い突堤

 

・悪戯が好きな猫たち シャッターが開くのを待って飛び出して来る

 

・敏捷な動きで林檎箱の山ものともせずに自由自在に

 

・沢山の赤いランタンぶら下がる市場は猫の故郷である

 

・漢方薬店の猫って賢そう 薬草の匂いに育てられている

 

・ちゃぷちゃぷとまたゆらゆらと揺れている河の艀(はしけ)に飼われる猫も

 

・船上の猫の名前は「花花(ファーファ)という 魚が釣れればいいね花花

 

・揺れている船は揺りかご 舳先(へさき)にいて夕暮れの海を港に帰る

 

・香港の夜景麗し 不夜城の水上レストランも今通り過ぎ

 

・香港の空にまだらの雲浮かび 姉妹の猫は重なり眠る

 

NHKBS『岩合光昭 世界ネコ歩き』より

 

 

『玲瓏』97号 2018年3月号

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「日常」    /     歌誌『玲瓏』96号より                 

日常 

 

・『夢千代日記』の中にあるような商店街の真ん中に銭湯梅の湯の煙突がある

 

・日常が日常として過ぎてゆき頭上遥かを超えるミサイル

 

・「問題ない」といつでもくりかえす官房長官は問題がある

 

・無関心な人々、無関心な人々、どこまでも無関心な人々がいた

 

・でもこれで大団円としては駄目 虹の尻尾も虹も消えても

 

・ホロコーストの時にも人々はのんびりと海水浴をしていたという

 

 ・北朝鮮の金正恩氏に守られて安倍政権は延命中です

 

・航空機も原発も止めずにJアラートを発する不思議

 

・原発でぐるぐる巻きになりながらイージス・アショアがあれば全土がカバーできると

 

・今そこで死んでしまった 息絶えた 蝉がいるのね 静かになった

 

『玲瓏』96号 2017年 

 

 

 

書いたのは、夏頃、

籠池さんが逮捕される前でしたが、

まだ勾留されているんですね。

なんだか、日本人全員、ずっと逮捕勾留されているような気がします。

囚われている感じ、

何をもってしても変えられない感じ。

この閉塞感、なんとかならないのでしょうか。

 

 

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『玲瓏』93号より「水無月の空」                   
・その子が夏を連れて来た とっても暑い夏が来た 運河に浮かぶ一艘の船
・きらめいて光を浴びて生まれた子 ゆりかもめ飛ぶ水無月の空
・レインボーブリッジの向こうに夕日 運河から弧を描きながら水船が去る
・幾つもの運河で街は仕切られて それぞれの島にそれぞれの顔
・少子化の日本の中に嬰児+幼児を連れた人の多い街
・街角でロビーで廊下で店内で 若い子連れの人ばかり見る
・昼過ぎの有楽町線、新木場行き 月島、豊洲、湾岸の駅
・老人の姿を見ない町であり既に世代は交代されて
・高層のビルが重なるシルエット 雨の日は雨に霞んで
・探っている 指で瞳で唇で 流れる風に揺れるモビール
『玲瓏93号 2016年9月30日発行 

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イルカのモビール                 

 

デンマーク・モビール吊るす回廊の窓の中の海、海の中の魚

 

七月に君は生まれた男の子 戌のお守りとイルカのモビール

 

七月の二十七日午後七時府中病院 新生児室

 

足頸に透明な輪のその名札 母親の名でまだ区別して

 

【〇〇〇〇・子】直径4僂い弔見なさいね箪笥の抽出し

 

裕ちゃんを初めて見た日の浩平は 吃驚してたね退院の日のロビー

 

浩平を抱いて帰った国分寺崖線(ハケ)の家 雑木林の石段登り

 

雨の日のレインコートの思い出は黄色いレインコートの思い出

 

手をつなぎ階段降りて国立のノイ・フランクやサンジェルマンへ

 

一ツ橋大学通りでお買い物 紀ノ国屋さんや銀杏書房

 

 

 

                    2016年6月発行  『玲瓏』92号

 

 

 

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ところどころ拾い読みでもいいのです そのうち時が私を攫う                  
短歌総合新聞『梧葉』/4月25日発行 より
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甲州百目                 
 

甲州百目

                
山峡の畑に咲いた馬鈴薯の花に雨降る夏が来ている

じゃがいもの花咲く花に雨降れば雀来ている雀のお宿

山里の斜面を夕日つつむ頃 馬鈴薯の花零れる畑

穿たれて畑の土はならされてじゃがいも畑に陽の射す時間

石榴咲き朱の花を抱く木があって夏蝶・光りの薄羽蜻蛉

「甲州百目」烏が好んで食べるから一つ残して 夕陽の梢

柿の木を扱う商人やって来てゴルフのクラブにするという話

二百年、樹は身を太らせて実を届け 本日伐採される木となる

白々と長い尾を引き流れたよ シリウスよりも明るい星が

傾いた道標なら見たけれど、深谷へ行く岨道だった霧が深くて


               『玲瓏』91号 

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『玲瓏』90号 提出作品                 

 

 神戸 

 


海風と砂地が心地よい道を歩いて行けば見える赤い屋根 

洋館が珍しかった頃の屋根 今も車窓から見ればそのままに


ロシアより帰った人が建てたからニコライ時代のサモワールもあり 

ロシアから来たサモワールや本箱は引越しの時も捨てないできた

マホガニーの堅牢無比の本箱は帝政ロシア時代の名残とどめて

その古い役に立たない湯沸かしは今も私の部屋の片隅に 

お隣と我が家を残して焼け野が原 母が語った記憶とともに

空襲で焼けてしまったご近所と 二軒残った隣家と我が家

母がまだ若かった頃の隣家なる「櫻正宗」砂地続きに

防火水槽代わりに酒の大樽を隣家より頂くという 家焼け残る 

その年の神戸は焼かれ焼け残り 昔の洋館の暖炉と酒樽 

焼け出され、引き揚げて来た知人・親類も二年近くを暮らしたという

あの街を焼いた炎の中にいた当時の人も大方は死んだ

消え去った幻だろうその校舎講堂に置かれた死体

小学校校舎に残る黒い跡『火垂るの墓』の頃の名残と

酒樽が醸造用の酒樽が防火用水桶になった時代と

頂いた大きな大きな酒樽でわが家は燃えることをまぬがれ

結局のところ見知らぬ街となり 震災もあったし時間も経ったし

町の地図ぬりかえ町名も変更し不可能となる存在証明

花束が微かにゆれて陽がさして その陽のようなゆらめきの中



                2015年『玲瓏』90号



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「中宿通りで」                 
 

 

・何もならなくてもいいと桜の木のコカリナを吹くその人は言った 

 

・オカリナは土の温もりコカリナは木々の温もりコカリナを吹く

 

・木の笛が樹だった時の夕焼けや枝に止まった鳥たちのこと

 

・街角の珈琲店の硝子戸を透かして見える赤い洋燈

 

・ある時は英会話教室ある時はミニコンサート会場となる

 

・冬の日の黄昏時のひとときを揺れる灯の下集う人々

 

・商店が途切れるところ学院の桜並木が始まるところ

                        
                        『現代短歌』5月号

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『無題』                  


・そのように言葉も心も破壊されただ突き進む国に生きている 

・不安という雲が覆ってこの空の彼方見えない雲が覆って

・国民の圧倒的な支持を受け始まったこと敗戦の道

・B層の多い日本 シンプルな統御しやすき国民ならん 

・その頃と今と何にも変わってない無知と無謀が手を組む作戦

・万歳と喜びあっているうちにミッドウェーまで持っていかれる 

・空母加賀、空母蒼竜、空母赤城、空母飛竜、次々とみな撃沈される 

・敵空母姿見えない海域に 零戦無数の残骸となる

・その時と今も全く変わらない敵の姿を見失う癖   

・蛍かと思った灯りが揺れていて 小さな明かりが飛び交っていて  

 

             2015年 3月31日 『玲瓏』89号  より   

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