原人の海図  2009年5月「青」歌会

・最後には焼き場の煙になるのだと思えば軽き今日の青空

・このように全てと別れていくのです青い鞄を持った旅人

・光りより光りは生まれ夏空の青を深めて睡る<永遠>

・私には何も無いと思うとき野良猫よぎる青い眼の猫

・この星の青さに惹かれ覗き見る異星の望遠鏡のようなものもあるらむ

・その島の洞窟洗う青い波 満ち潮となり隠れる岩屋
祥  * 『 毅 歌会 1 「原人の海図」 * 23:01 * comments(2) * trackbacks(0)

IT歌会の記録 1 「原人の海図」

「動物」歌会

すんなりと手脚の伸びたレリーフの猫に出会える地下の教室
太陽神ラーが昇って天空に ヒエログラフの鮮やかな鳥 

番外詠草
双頭の鷲が統べていた帝国の地方貴族のオブローモフは
羽の無い白鳥に似て野鴨にも劣る存在 オブローモフよ



「体」歌会 2005年10月再開第4回 
本詠草
銅版の腐食をいつか愉しんで 紙片に写す頭蓋の形

番外詠草
この身体ひとつなくせば新しい世界が視える夜明け前にも


★↑ここから新体制で引継ぎ再開
-------------------------------------------------------------------
☆↓ここで原人の海図歌会は一旦終了。


【「傾(かぶ)く歌」「褻(け)の歌」歌会】


「傾(かぶ)く歌」
身をやつし心をかくす夜叉鬼が夜の神楽の男となりぬ
苦しくてならぬと傾(かし)いでゆく身体 大王松の一生終わる
絶望に傾いてゆくこの町の送電線にカラスがとまる

「褻(け)の歌」
碾き臼を引くとき驢馬は何思う 窓を持たない小屋と碾き臼
お終いになるまで少しある時間 木は空洞に音を楽しむ



【10月はたそがれの国歌合】 

5番勝負 「貝」
右方:★ (遠くまで飛べないだろうか)海深くある日思った<天使の翼>  


【写実歌会】

幾度目の拒否を経験するマウス悲しみらしき青の点滅
いつだって置き去りになる石ならばいっそ知らせよ石塊の重さ


【住居歌会】

水明かり火明かり夏の夕明かり 人影ゆれて誰を待つ家  


【連休ミニ歌会】

<詠草>
雨に陽に風に晒して色褪せないそんな何かを見つけられたら
戦いの中に戦い終わる日を夢見てドンキホーテの風車
風車には誰もが夢を見るような羽根を広げる孔雀のような

<番外詠草>
雨に陽に風に晒され色褪せて儚く消えてゆくのもいいね   
青空と雨の匂いのする夜と変わらぬ日々の温和さに居る


<メッセージのある歌会 詠草>


「珊瑚礁の島に」

珊瑚礁隆起してゆく突端に島の空港のどかに開け
断崖に寄せる白波、波頭 乳白色の雲の階段
浦島の龍宮という伝説の洞窟がある海中深く
ハイドナン珊瑚の島の海底に深く沈んで翠鳥の骨
翠鳥は眼ひらいて沈みたり 眼窩に生えてそよぐ海草
龍宮よニライカナイよ沖遥か走る帆舟の紅の帆よ
帆は風を孕み夕日に傾いて翠鳥の屍の上を過ぎたり
死の死の死 眠るためには千年を眠れる言葉が必要だった
砂糖黍畑をめぐるトロッコの鉄路に白い鳥の幾羽か




「ごわさん」イメージ歌会


[本詠草]

三月は優しい季節しゃんしゃんと鈴を鳴らして神社の仔馬

★木蓮がそして辛夷が咲くだろう 春ですあなたは死んではいけない


[番外]
熊の仔は走る熊の親も走る 阿寒の冬は終ったらしい




「空・雨」歌会


[空の部]

鮮血に染まったような空があり傷ついている魂がある

空に雲、花に鳥ある幸福を 弥生の空と富士の笠雲


[雨の部]

きさらぎの雲鬱々と垂れてくる降りだしたくてたまらない雨

白い花ジンジャー香るこの夕べ花に降る雨、小径の翳り





「銀耳」歌会


「無題」

銀の森、銀の狼、銀狐 燻し銀とは何に燻され  

囁きは耳に 降る雪のクレムリンにはロマノフの宝石

★ 手紙には雪解け水の冷たさと春の香りのする草のこと 



「レ・ミゼラブル」 

この人にあげたものです 銀の燭台は司教の手からバルジャンの手へ 



【年間アンソロジー歌会】


★廃線のレールがのびてゆく村にひらく月夜の無数の茸 



【師走歌会・クエスチョンの風景】


スカラベは死んだのだろうか復活を果たすだろうか高橋尚子





「SF」歌会


<本詠草>

★廃線のレールがのびてゆく村にひらく月夜の無数の茸

閃光に地球は開き天蓋の草原もゆる焼けて爛れて

かぐや姫あなたの遺していった子がこんなに大きくなって母恋う




<番外詠草>

人間の足音絶える病棟に異形のものら漂う気配

ガスタンク一基しずもる北国に光の裳裾ひろげる天女

誘われ月の光が射しくれば血の緋縅の顔の無き武者




「彫る」 歌会

性格がまず何よりも似てしまう DNAに刻印がある

手遅れになって初めて気がつくよ 彫り刻まれた時の爪痕



消しゴムを彫って作った元旦の判を捺したらめでたき正月

木に向かうひとりぼっちの音二郎 彫る打つ刻む鑿と鏨と

格子戸が刻まれていて月明り その格子戸を出てゆく男




「鳥獣戯画」歌会

<本詠草>


「おはよう」と「おやすみなさい」だけ交わす 緋色の鳥が巣立つ鳥籠

火に揉まれ風に煽られ落ちてゆく蛾の一生が今日終るらし

夢見ても夢見なくても私たち冬のカナリア 歌を忘れて


<番外詠草>

鮟鱇は吊るされ皮を剥ぎ取られ自分がなんだかわからなくなる

どこからも誰からも何からも束縛されざるKURO夏の猫

足裏が痛くはないの?象亀は 水場といってもこんな水溜まり

悪意あれ皮肉またあれ恙無く日々は暮れなむ六羽のかもめ

WEBの十重の二十重の網の目をすり抜けてゆくチシャ猫ニャジャラ

「衝撃」と「恐怖」の作戦ありまして 炎える狐が走った砂漠

火の色に包まれていた夜のこと母なる星と教えた狐

ジョバリアの骨を曝して眠る砂 サハラは風を孕む静寂

朝焼けの虹のサハラに一匹の蜥蜴が走るオオムカシトカゲ

休みなく歩きつづけた駱駝にも休息のとき 夜のサハラよ

たそがれて疲労物質ため込んで擦り切れてゆく海馬の首骨

ゆったりと羽をのばして飛ぶように手をのばしたし暁の空

大量の死骸が見える蛍の木 蛍の夢の亡骸だろう

死はいつか そう死はいつか死はいつか 駆けよって来る仔犬のように






葉月「プレアデス」歌会


幽霊の棲む夏に来て幽霊の姿を見たりメールで送る

柔らかな優しい脳に露草が 惑星のぼる天球の丘

瓶にさす藤の花ぶさながければたたみの上の生きる屍






文月「かなしばり」歌会


★おんねんはさばくにうみにふりしずみよるのそこひをながれるオイル

せみだってかなしいだろうあまがえるつめたいだろう あえますか夏

アンダルシアにひまわり咲けばロシアにもひまわりがさくデ・シーカのそら


番外
にわさきにサティが聴こえすうじつののちにふほうをきいていました

ごみばこをソラにできたらたのしいね ソシレファソラの底もそらいろ

ときじくのかくのこのみのかぐわしくあめのはるよもひでりのなつも




「五感」歌会



今さらもうどうにもならないではないか手足100本生えたからって


<屋根描けば屋根打つ雨の音も描け>甍に落ちる一粒の雨


車海老、酒に浸して躍らせて食する餐の惨にして燦


薄切りの茗荷、青紫蘇、葱、オクラ、平目/海鮮の舞









「連作・薔薇」歌会







《無題 1》   


もしかしたらこれが最後の晩餐 そんな食卓の一輪の薔薇


<連作で記名して書く題詠「薔薇」> 薔薇殺法の薔薇の一片


今朝の薔薇 赤い蔓薔薇、どこまでも青空だけを背景として


いつか観た映画、ミクロの決死圏 臓腑に咲いた華麗なる薔薇


赤い薔薇、白い蔓薔薇次々とあなたに届け薔薇宅急便


「薔薇殺法」ベーカー街に吹く風を歌っていたのは秋谷まゆみさん


その夏は塚本さんもまだお元気で政田岑生さんもいらした




《無題 2》  



薔薇の実の黄色を愛す道端のフェンスに這っていた薔薇の花


雨という嵐ともいう『くれなゐのニ尺伸びたる薔薇の芽の』雨


クリムトのエゴン・シーレの血で描いた退廃ゆえに血の薔薇の空


薔薇咲けばそこは薔薇園、それが鮮血だったのならば戦場


冬薔薇(そうび)咲く庭かげの子守歌 罪を隠している夢の青


いつかまた信じられると思う刻 曠野に咲くという青い薔薇


青い芥子、青い蔓薔薇ゆめに咲く 虹の橋より降りてゆく道















「家族・一族」歌会







━丁寧に剥がしてゆけばその人の初めの形あらわれてくる━

綿帽子被って町は眠っていた その町にいた三人家族

婆沙羅、婆沙羅 遠き婆沙羅の裔にして海を見ていた水仙の裔











「昨日、今日、明日」歌会







菫、韮、白水仙に黄水仙「昨日、今日、明日」夢の浮草



明日あれば明日の庭に咲いた薔薇、廃園なれば廃園の薔薇











「存在」歌会







虚しさの他に何にもないような このむなしさが存在の証?


かなしいね だってもうすぐ死ぬんだよ みんな、私たちみんなさ


おもいびと鬼に喰われて消えにけり見えぬ心の鬼なりと聞く


土蜘蛛は長病みにけり病み臥して心弱りて糸吐きにけり


存在が儚くなって背もたれが軽く感じて私がいない











「わが愛」歌会





<詠草>

たっぷりと大きな愛が注がれて<地球>と名づけられて生まれる

マエストロあなたの優雅で繊細な音の海から私は生まれた




<番外>
昼の月はんぺんみたいな半月のそばをひらひら白い鳥になり

薔薇色の時の睡りをねむったら目覚めるだろう クメールの風

いつだって此処にある愛 ミミズクが風のささやき聴く夜の森

天と地と闇と光と海、生き物 たったそれだけ? 七日もかけて

<水惑星第3惑星地球という美しい星凍る20XX年>

死にたいな言葉じゃなかったはずなのに言葉なんだね殺されている  















「鍋」歌会



<詠草>

火の工房、魔女の工房、肉を切り骨をばらして煮出だすスープ 


牡蠣殻の牡蠣の妖艶、牡蠣の華 乳白の靄たなびく夕餉   


火の透明、水の透明、白菜が透ける土鍋の水鶏沸々





<番外詠草>   
ふっくらとやさしく煮えた水鶏と真白き葱の相聞の光  


合鴨は田に放されて田に遊ぶ 一期一会と相見ての餐   


意味不明、意味分裂、意味切断 激辛キムチ火鍋、ビビンバ   


合鴨の仄かに紅の透ける鍋、葱やわらかに砂肝を抱く   


もうこれでお終いだって思う日の鮟鱇見たり湯気の向こうに   


カラザにはカラザの主張あるらしくぬらりつるりとつかまえられず   


さびしさやかなしみまでもまぎれゆく危うく崩る春の闇鍋   











冬歌会(「ふ」で始まって「ゆ」で終る)



[詠草2首他番外詠草]



(冬)

フルートが月の光を浴びる窓 おやすみなさい木枯しの冬

不連続な間奏曲を聴くように夜更けになれば物語る冬

ふりむけば白雉(はくち)の舞の藤の花 あかねさす恋、薄ら氷の冬

ふくらんだ葉っぱに何の想い秘め揺れているのか睡蓮の冬

富士川の葦の河原のカワラヒワ お喋りしたい早すぎる冬


吹雪く海、凍る湖浮かんだら津軽に帰る ふるさとの冬

浮遊して生きているよというように眉うすき人たむろする冬 ☆

不確かな未来に震え砕け散る木っ端微塵の明日がない冬

膨らんだ夢も希望も潰え去る冬が来ている 精神の冬

浮浪児と傷病兵が街角にいた日本の去りし日の冬


風景の一つになった壁紙の一つになった日本の冬

含み損、丸ごと抱えて列島は錦秋の秋、小春日の冬

膨れゆく不良債権 渺々と行方も見えぬにっぽんの冬

復活を時に疑い時に信じ転び伴天連ガブリエルの冬

噴水の虹には夢の七色のカレイドスコープ 華麗なる冬


負の連鎖シエンクワンの洞窟の遺体数百 アメリカの冬

封印はしめやかに且つ華やかにタカンナの音 正倉院の冬

訃報また一つ受け取る let it be 為すがままなる列島の冬

冬嵐、風は月影吹き払い雲は龍雲きみを待つ冬

更くる夜に道に迷うはさびしかり月の小舟も漕ぎ出でて冬


ふと見れば早朝近い午前三時 昨日暦も変って真冬

梟も夜がらすも啼け魂も知も肉体も冷え切った冬

Prelude z 秋の小径の前奏曲 いつか再び会うための冬

ふくろうは縞ふくろうに白ふくろう みみずく啼いてこの森の冬

不死鳥は死なない鳥と誰が言う数え切れないその胸の冬






不死鳥(フェニックス)病む鳥にして不死の鳥 かわらぬ愛の羽ばたきが見ゆ

ふくれつらしている誰か イシュタルに決まってるだろ。ねぇ、ギルガメシュ

プラトンもレヴィストロースも知らないがエピクロスならおなじみと揶揄

フラメンコ「カルメン序曲」爪弾けば 石畳道スペインの夕

不自然な沈黙そして死の序曲 もう逢えないと知った日の夕


太っちょのサンチョ・パンサの見る空に原子の花が咲く明日の夕

不意打ちに弱かっただけ 突然に幕が下りたこと知ったリモージュ

フランケンシュタイン、ドラキュラ伯爵の血と薔薇愛でる虚時間が朽ゆ

フランケンそしてあなたのかなしみは創造主への反抗の繭

フランケンシュタイン生めば不条理の哀しみも見ゆ存在の憂


不可思議の淵は魔の淵 存在の深淵覗くモンスター見ゆ

フラスコの中で生まれた命でも愛しやまない悲の恋の繭

フランケンシュタインゆえに父もなく母も知らない存在の憂

不条理も理不尽もなく誕生し此処にある鬱 かなしみももゆ

ふりかえりふりむく人もないぼくはモンスターとも知らず恋う比喩


腑に落ちぬこともあきらめ生きてきた あなたの力を貸して 悲の比喩

不飽和脂肪酸伝説に過ぎないのかも知れないがリノールの油やサフラワーの油

沸点は99.974℃ もうこれ以上堪えられない眉

フラクタル奇っ怪だけれど断片は確かに全体表わした繭

双瘤の駱駝が歩く砂漠には見えない泉、真実のの比喩


古時計、深夜に鳴れば屋根裏の鼠も鼬も僅かに怯ゆ

冬の旅 声明響く僧院の奥の院よりニ胡の音も聞こゆ

冬日射す如来・菩薩の光背の中の千年 微笑する繭

復刻版名著の用紙、薄紙の瀟洒な洋紙、暖炉にて燃ゆ

襖絵の紅葉山河に交じり映え 金箔霞む屏風絵に炎ゆ


風邪(ふうじゃ)ひき 葛根湯の成分の芍薬も炎ゆ知らぬまに癒ゆ

冬来れば冬の心に春来れば春の心の十七歳の眉

降りしきる雨音しげきこの夜も母のいのちをつなぐ白湯・粥

沸々と燃える紫、涼しさの白い花咲く恋しくて繭

補陀落の海へ渡って行く船に酔いやすい私が薬服む白湯


不死不滅不老求めて来た徐福、遠く故国を見る岬に消ゆ

踏み出だす一歩の初めアフガンの戦渦と報道する義足義手

刎頚の友なる人のすでになく大臣(おとど)は熟柿のようにひた老ゆ

「更けぬらむ星合の空」明けぬれば花梨の光冴えゆくを見ゆ

冬月の冴えて痛みは増すという 膠質から湯煎する御湯


冬薔薇(そうび)、白鳥逝けば虹立ちて虹の重ねの分離層見ゆ

復活祭 カリヨンの橋渡るとき次の主題は蘇える野趣

普請好き祖父の望楼、時計台 明治の煉瓦色の夢見ゆ

不機嫌な祖父を知らねば水色の夢の行方も知らぬ白露

不可思議へ水は流れてゆくものを春の心も薄闇に消ゆ


降る雨も夜の心に吹く風もいずれ銀河を越えて来た騎手

ふらふらと眩暈するからおやすみと病のように優しき隠喩 ☆

冬茜、末期の水も間に合わずこの世を去りし人の眼の見ゆ

冬枯れの庭を巡って戻るとき差し出される一椀の白湯

不凍湖に雪降りしきり黒鶫(つぐみ)群がって鳴く 夕茜見ゆ



吹く風の川棚の簗、簗に見る笹竹の青、身を跳ねる鮎

不弥国も狗邪韓国も末盧国も卑弥呼の国も風と火の繭











「火」歌会



<詠草>



紅鶴(フラミンゴ)もう淋しさは癒えましたか火のさみしさは



<番外>



Gloria アンダルシアの火の心 マノロ・カラスコ風のバラード 









「虫」歌会



<詠草>



すいすいと風に乗ったら風の翅 ムカシトンボやムギワラトンボ



稲刈りの田んぼをのぞいていきました秋の夕日に染まったトンボ



朝顔とビルと夕焼け赤とんぼ あの人のもとへ飛んでゆきなさい



<番外> 



ハエも蚊も限る命を生きるからヒト科のヒトの私も生きよ   



秋の夜の簾の宿の何虫かチチと鳴き初むいつしか消えぬ   



日常がまたもこうして始まった 七星てんとう虫の伝言   



青虫を産み落としたる蝶も来て柑橘、ハーブ、晩夏にそよぐ 









「寄物沈思」歌会



<詠草>
この指はこの空洞に鳴るヴィオロンは何訴えて何泣いている


デンマーク・モビールまわる夏の午後 蟻が見ている砂と太陽


私は今日も私の絵を描くよ ドアを開ければ海はすぐそこ



<番外詠草>


土曜日の花火が上がり今週の油蝉にもお別れが来る


達成は何事にもあれ最終の列車連結解く摩擦音


晩年がそこにあること晩年という敷石の石畳道



<歌会外番外>


もう秋か八月七日立秋の前日寒暖計が汗をかいている


新たなる権威タチハダカルその時に突き破る矢が必要だった


中途半端に開いた扉 ゴマアザラシにはまだ暑い夏


猟銃を暴発させるような秋 禁猟区なお殺むる死体


お風呂屋の煙突の吐く煙とか ひとりぼっちの風鈴だとか


色褪せたというよりも色失せた写真の中の昭和の子供


あの路地もあの看板も煎餅を焼くあの人も消える とある日


銀犀の彫刻すでに色失せて濃淡のみのなか 角らしき


秋の日があたたかくても太陽の心はとっくに冷めてしまった


置き去りの影を残して行っただけ ためらうように立つ影法師


大鋸屑(おがくず)を混ぜて焼くとき空洞が陶器の中に生まれるという


微熱して巨象のように横たわる もう終焉も近い体制


陽だまりにある石一つみほとけを削り出だすべく石工が一人


ともあれや「醜の巻貝」、歌われし「海の傷」もつ貝の名は何


呪われし醜の牡蠣殻傷深くさあれど海の滴る乳の


壁画には迦陵頻伽の鳥鳴きて菩提樹、蓮(はちす)、石に射す影


川原には水晶石や蛍の碑、精霊蜻蛉飛ぶ秋の村


石英は二酸化珪素の結晶で水晶となり水となる石


たとえば海たとえば風であれたならあなたをなぐさめられたのにボクは雪虫


その犬がやってきたのは道の向こうから だから道には友だちがいる









折句「夏深し な・つ・ふ・か・し」



夏来ればツクツクボウシふるさとの樫の木で啼く静かさも来る



那智熊野、月の古道を踏み分けて通えば夢の紫苑もゆれる



波の花、月の小舟を吹き寄せて 風は早瀬を潮の音戸を



海鼠、雲丹、壷焼きさざえ、蕗に添え貝の酒蒸し潮の香の膳



夏風邪に月見ることもなく臥して川原の石のしずけさ思う  



流れゆく津軽の水はふるさとの金木、津島の修治さぁの水  



夏が好き 釣瓶を落とす深い井戸 涸れることのない清水湧く井戸  



泣かないで辛い思いはふりすてて辛子明太子、塩鮭(のお茶漬け)いかが? 



泣き兎、月跳ぶときは古傷が微かに痛む しっかりと跳べ



なぜ泣くと月の原っぱ振り返る母さんのいま白い影見る



<讃岐では月は溜池その池の数だけあって月を見る池>



夏の水、艶やかにあり深く澄む 樫の梢も白い水霧



泣いたのは疲れていたし不安だし悲しい夢にしかも似ていて



夏の日がついに終って浮浪者を乾いた土の屍にして



なぜこんな冷たい雨が不条理が苛酷な生が視野杳くする



泣かないよ疲れた街が不安でも風は南の島からも吹く



脳(なづき)には月の砂漠の深井戸が隠れて今日も紫紺の宇宙



夏の朝ツクツクボウシの降る声と風もとまったしじまの深さ



なみなみとついでつがれて降る雨に迦陵頻伽の至福聞かせよ



夏の闇 月読、月の深井戸は涸れることなき静けさの井戸



夏の日の月夜の森の梟や風吹く夜の鹿の鳴く声



膾吹くつくづく懲りて深傷のかつての熱さしばしも忘れえず



鯰にはつい騙される深い沼、川の澱みにしっかり隠れ



艶かしい月ではないか更けてゆく川面に映る静かな夜の



なまこ壁続く土蔵と深碧 川の流れと白い格子柄



何だって辛い切ない深い理由(わけ)悲しい理由まで喋っているの



夏の夜は続く夢路の深い闇 川も下りて潮路遥かに



夏来れば月も雲間に震えもする輝くばかり死の八月は



鳴神の月の小舟は不帰の人悲しむらしきしばし漂う



流されて月夜の舟は不帰の舟 帰らぬ去年の四万十川の夏



菜の花の月は上弦 吹く風も海峡こえて四月の吹雪



夏の庭 ツワブキの黄に降る雨か 蜻蛉の墓、白鳩の墓



夏に病み爪も青みて不帰の人 影法師立つ白い魔の刻



夏の夜の月は大きい 故郷の海岸に来て島の夏来て



夏風邪に釣瓶に冷やす深井戸の花梨は喉を鎮める果実







折句「あ・り・が・と・う」



・あの朝も竜胆咲いて蛾のような蜻蛉のような羽化始まって  

・安曇野の竜胆の咲く画廊には透明な空、海の絵の空  

・雨音は林間に建つ硝子工房の弔うように打つ時計から 
 
・愛してる理由はないよ蒲の穂が遠い川面を海へ流れる  

・雨の朝リアトリス咲きガムランが遠く聴こえる海辺のテラス 

・愛していた理由の一つ画集には遠い帆影と海の青さと  

・熱き恋、理由なき愛 画壇には友だちもなく海を描く人  

・青木繁 理解求めず画壇にも遠く描かれていた「海の幸」 

・雨の街リラの花咲く瓦斯燈の灯るやさしい愁い降る町 











「働く」歌会 





歌会詠草2首 他番外連作 (「オブローモフ」〜「坂下商店街」)



<オブローモフ>

劇団の研究生の一日は玄関、廊下の掃除に始まる
僧院の修行僧たる一日も 掃くこと拭く事洗い清めて
ところでわが主婦なるものの一日は。。。。。。。。。。。。。。。。
働けば働くことが好きになる? 働くことが苦手でしたが
帝政ロシアの田舎貴族のオブローモフ働くことを知らずに死んだ
寝椅子から彼の寝台までの距離その他に歩を歩むことなく
つまりはもう死んでるように生きていて下僕一人に全て任せて
人生は上の空なるうちに過ぎコンスタンの書くアドルフもまた
されどされどコンスタンとかゴンチャロフ有能にして多忙な人々


<海の見える駅>             
─蛎崎を二つ先にて降り立てば海はすぐそこ海の見える駅─
鰯網上げて釜茹でした鰯、夏の天日が作ったイリコ
嫋嫋と形容される女ひと此処にはいない二の腕までも
浜に人、工場に人、船に人 八月九月、入り江の村は
その海老は蒲鉾の海老 海老蒲鉾 海老の天麩羅などとも言って



<心筋>

「働けど楽にならざる暮らし」という持分使いきりたる暮し
働くということ知らず過ぎた世の先祖の分も働かされる
「世が世なら」世が世であってもなくっても、もう私たち働くしかない
その上に働けるだけ幸せと言われていたりする平成も14年
昭和があり平成があり君が代は千代に八千代に血もて贖う
よろず世の不平不満も究極は自尊にみあうナニガシのこと
日に何度水遣りをする夏なれば夏の陽射しの落ちゆきて後
働けば喪い働かざれば餓え心一つの飼い主ははや
筋肉も働いているそれゆえに心筋鍛えたり休めたり



<夜と蜜蜂> 

私は元気をもらった私は勇気をもらった 働くコトバ
蜜蜂は働き者か 巣が蜜と光りで溢れるほどに働き者か
郵便配達夫は働き者か 山奥でも離島でも正月でも働くほどに働き者か
風は働き者か ふうしゃにでもかざぐるまにでもなるほどに働き者か
鈴虫は働き者か 力尽き鳴けなくなるまで鳴くほどに働き者か
夜は働き者か 恋人たちが逢瀬を重ね泥棒たちが闇を奔るほどに働き者か



<月が攫って>
心がねちょっと火傷をしたのですだからね少しだけやすみます   ☆               
働いて休んで働いて休む いつからリズムが狂ったのだろう
初めから好きじゃなかった働いて働かされて生きるということ
汚されて汚れて生きるその他にどんな生き方あったのだろう
一度でも「労働者諸君」であったことも、もちろん貴族だったこともない
喩えれば日向の石の影に似て予約した死を映す黒揚羽
夢ならば醒めよでも夢じゃないから毀れて生きる
懐かしいものの一つに小母ちゃんが焼いたお好み焼きの天かす
今はないその街はないもう何処にも 明るい月が攫っていった



<夕闇> 
民営化スタートするから引越しも考えている小さな局舎
長屋門の片袖使って開局し 明治、大正、昭和も越えて
1丁目1番地から配達の赤いバイクが出る坂の町
郵便の袋が山と積まれたお盆前 集配・郵便・簡保の窓口
差し立ては地方区分函 自局宛とは違って少ない
下り1便、杷束解束、即打鍵 2パス終了午前7時半
どの家に誰が住んでてどの家に猫がいるかも知ってる郵便屋さん
料金不足、住所不明の差し戻し、市役所、私書箱、速達、特殊(書留)
小包の入力忘れずチルド便、花の宅配、集荷に注意
正確にかつ迅速に丁寧に、幽霊郵便残留注意
夕陽射す局舎に漸く浜風が もうすぐ帰って来る釣り船が



<八月の虹> 

ほんとうは訊いてみたいのあの人に何がしたくて何を希んだか
女優にも歌手にもなれないそのうえに家事労働も不得手なんだし
夢見つつ老いて死のうね夢見つつ 夜のボートが岸を離れる
手に職も資格もなくて百姓も漁師もできない 何で生きよう
雨の日は雨を見ている風の日は風を見ている虹の光彩
今泣いて今笑ったよ今怒り今笑ったね明日は南風
あの空が黄色くなって夕立が斜めに町を通り過ぎるよ
日に三度お米を研いで日に三度御飯を炊いてそんな毎日
どうしたら私たちの人生が明るくなるの 働けばいい? 
光ったよ稲妻、鳴ったよ今カミナリ 雨がやんだら 八月の虹



<光り零れる> 

「宿無しに向いた公園あるだろうテント張るって選択もある」
「働かない宿無しだから掃除する 狩りに最適、狩りは最高」
不忍の池の雁たち飛び立てば忍ばぬ空の光り零れる
宿無しの猫の帰っていく先は去年母ねこ死んだ公園
舌先にミルクひとすじ親切なおばあさん 夜の痩せ猫
宿無しの野良猫だから飼猫の私たちとは違うと三毛が
「どですかでん」プールを描く二つの手 もうすぐ街は土砂降りでしょう



<西日>  

革命はついに起こらず起こりえず心に棲んでいる冬の虫
働くか働かないか考える西日のあたる研究室で
就職の氷河期続くアイランド 執行猶予さる終身刑
リストラは若年層に及ぶから遺伝子までも染まる夕焼け ☆
海ゆかば水漬く屍の万燈会 漂う暗い海の灯の船
パラサイト症候群のたそがれの精霊浮かぶ八月の海



<ぶな>  

野鼠や鳥の運んだブナの種 日陰の種が待つ光る森
熊笹も雑木も邪魔にはしない森 ブナは静かに明日を待つ樹種
繊細に水も光りも分け合って ブナは寄り添い育つ優雅種
水の森、太陽の森、風の森 精霊が棲むという時の洞窟



<貝と向日葵>  

始まりもなく終りもなく私たちにはただ現在進行形
移り住む都の端の掛け小屋のサーカスみたいな生活(たつき)あること
さてどこに再構築があるのかと見回せば窓際のペンギン
容赦なく苛酷な嵐吹き付けて最終戦争みたいな日々が
向日葵の首を動かすお陽さまの働きもののお日さまのこと
流木や貝殻にだってあるという命の名残りのような夕焼け




<もうお終いに> 
知らないで知らず知らずに傷つけてそういう私がいたことを知る
情報学・コミュニケーション理論など学習するにも働かない脳
検察や弁護の声も《黄金のウルトラマン》の働きにして
割り箸が脳に刺さった少年の検察動く働きのこと
悲劇から悲劇を終らせる働き 他人の声が聞こえはじめる
不作為の過失重ねる愚かしさ もうお終いに。。できるだろうか



<食卓・市場・港>

泥牛蒡、葱がはみ出す袋がある この夕刻の淋しい時間
鮭の子も鰊の子供も赤赤と食卓灯す夕餉の時間
山の音、川棚の風、耳澄ませ目瞑れば落ち鮎の影
桟橋に横付ける船引き入れて照明灯の下に烏賊見る
伊勢海老の舌に仄かな甘さに似て暮れなずむそら港夕景
港には雨降るもよし止むもよし 出船入船にぎわう夏は
海底に眠っていたと思うのに引き揚げられて哀れ蛸入道
断ち割って選別すればなかなかに冷凍鯨に残る銛傷
吊るされしまま削がれゆく鮟鱇の体内にありしころの水嵩
若い日の傲慢にして過ちの多き私のキリギリス死す



<伐採>                    
教師B照葉樹林の調査して落葉樹こそ木々の王様
伐採は神木残し欅、杉、檜、樅の木 陽当たる道の
林道は県境近い恩賜林、県有林、と富士見山まで
木を敷いて樹を滑らせて谷底を走る道まで一気に落とす
その技術伝える人も無いままに荒らして枯れて倒木目立つ
晴れた日は湖に降る藤の花、白鳥下る忍埜七湖



<葡萄園にて>                
葡萄園その一面の葡萄にも斜陽あまねく充ちる夕暮れ
貴腐葡萄熟れ熟睡する一の宮 甲州葡萄の眠れる館
熟成のワインの樽にひっそりと三千年の胞子が育つ
腐るもの時に馳走の曼陀羅に 夢もしずかに貴腐となりゆく



<坂下商店街>                
坂下の煙草屋さんの不愛想 箒と雑巾バケツ片手に
文房具店宇宙堂の小父さんと小母さんの愛想良しは天下一品
荒物屋阿波屋の店は通り抜け 鰻の寝床みたいなお店
古書店の奥の帳場の黒光る階段横の「江戸名所図絵」
働いて身体こわして入院という噂聞く接骨医工藤先生 
お団子は香林堂本店の看板 みたらし、餡子、お月見団子
自転車屋、お肉屋さんも閉店し閑古鳥鳴く坂下商店街
一軒のスーパーマーケットM頑張って一等避暑地に招待セール
花舗「四季」 薔薇の棘取る指早く水桶変える手つきも早く
日々競争日々研鑚の商店街 後継ぎ絶えて油蝉鳴く
今週でお終いになる酒屋さん ビール配って乾杯の声
昔この此処に映画館があったという駐車場には白日の難破船









「夏」歌会





<詠草>



<それは再びオフィーリアに逢うための物語>

・あの夏の日離れ離れになったけれど君はオフィーリアに逢えるのか



・惨劇が起こるよ夏の午後だから 一木一草動かざる夏


 
<番外詠草>


・薄紅の茗荷、生姜を食すとき夏ゆうぐれの涼しさは来る


・紫陽花の色失せし頃アジサイの干菓子涼菓の店の打ち水


・祝祭は仄かに杳く黄昏の光の中の鱧の身の白 


・牡蠣、鮑、さざえ、檸檬の風炉に入れ遺恨煮詰めて土産の煮貝


・薔薇色の生ハム冷やしその陰にトマトの滲むカニバリズムか









「探す」歌会





<詠草>



母さんと呼ぶことのない母さんをさがしているのねクローンの羊


雑踏のダークサイドにたった今ひとを殺したラスコリニコフ





<番外>


・探すのは見つからないと決めたから逃げてしまった番の小鳥


・夜空には夜空の星があるゆえに星の墓場も隠れているよ


・夕暮れてたどる迷宮、背戸の藪 狐の嫁入り 過ぎた春の日


・幌付きの馬車が西部を走ってたそんな時代のお尋ね者さ


・向日葵が種に隠した真実は誰も知らない探してごらん


・秋の街、こんな静かな雨の日の遥かに海が見える隠れ家


・しばらくのさようならですおわかれです地球の青さ忘れていません


・あの夏になくした瑠璃の硝子球 捜しているのね夜明けの鴉













「連作・百合」歌会



<連作詠草>



《百合の記憶》


・「二十四の瞳」の中の百合の絵のアルマイトのお弁当箱


・郷愁は危険な薔薇の棘かしら 私を刺す病む薔薇の棘


・明日まだ憶えていたらこの強い百合の香りのせいにする獏



《空洞の百合》


・息苦しいばかり抱きしめられた日の 百合の根元に埋められた日の 


・ベネチアの商人の家のフレスコ画 百合の咲く庭、絵の中の百合


・空洞に百合を懐胎する裸身 処女懐胎のマリアの胎児



・敗北の太鼓打たれて遠ざかる 体内に咲く百合育つ午後 





《夏の訪問》 


・透かしユリ、薔薇とブバリア花束を後部座席に置いて夏来る  


・あの夏のあなたが元気だった日の夏の訪問 百合を見ていた 


・山蔭の百合の胞子を受けとめて蛍見る沢、水満ちる沢 


・さよならと手を振っていた 庭先のユリが小さく揺れていた夏


・いつかまた 一年後の約束のあなたがいないこの夏の駅



<番外連作詠草>

《百合の紋章》 



・ブルボンの封印解いて鉄仮面外して頬に心地良き風  


・封印は密やかにまた軽やかに夜毎に咲いた仮面舞踏会  


・マザランもリシュリウも退け 紋章が刻印された仮面が割れる


・ブルボンのルイ王朝の正統の王子引き継ぐ百合の紋章  





《銀彩の百合》 


・銀彩の百合が微かに残っている百合の高さに立つ墨図壷


・山道に百合自生する霧の道落人たちの逃れたる道 


・せせらぎの微かに聞こえ人里の人の匂いを避ける獣道 


・六月の殺意はげしく百合香り百合が揺れれば一夏の最期  


・笹百合の祭を見むと奈良の旅 稚拙可愛ゆき犬のお守り  


・百合若の末裔にして血の系譜 百代の裔うたう百合歌 


・笹ゆりの媛蹈鞴五十鈴姫命子守神 犬の守りも尼僧が作る


・三輪山の三枝祭ゆりまつり水無月の鬱流す狭井川













「連想・海図」歌会







海の名で呼ばれたことも忘れ果て貝や鯨の墓場になって



海峡を浮き沈みして漂ってボトルが届くような初夏 



櫂も櫨も海図も羅針盤もない星降る夜の風の鳥舟



逢いたくて探して来たよ君が住む星の海図は僕が持っていた



砂浜に砂紋を描く波でした 海の夜明けを見ておりました



生きているその確かさを知るために星の海図の示す海に出る



青嵐吹くころ船出した船が太平洋を漂っている



まどろみに一艘の船出てゆけば帆柱の消えてゆくまでの水平線



夢ならばまだ水平線の向こう側 光る海見る海岸電車



薔薇色の海に逢ったら伝えよう あの船ならば銀河に消えた



薔薇色の海に日輪沈むころ天空をゆく舟のあること



唯一の望み断たれてここまでと水の波紋の中心の渦



櫂も櫨もなくした船が午後の海、曳航されてゆく春の湾



逢うために生まれて来たよあの星に天空図には載っていないよ



あの星は宙の海図の指し示す天上の芯凍らせている



海に降る雨や潮騒、桜貝 まだ見ぬ丘に咲く花のこと



紅海の香油のような金色の凪の海見る水夫も火夫も



夕風も夜風も夏の甲板で誰かが歌っている遠国の歌



夜の船、南十字が導けば心は奔る帆柱の風



海溝で澪で岩場で見失う 細く傾く帆柱がある



生き難いこの世を生きる空しさに星の海図を開いてみたよ



これがもう最後と思う航海に連れて行きます鸚鵡と烏



座礁する船の傾き、真二つの裂けた心の血だらけの船



夕闇に横顔見せて金管や木管の人、席に着くデッキ



僕たちの救命ボート降ろされて夕焼けてゆく死のシルエット



海に降る雨が走って海の果て水平線の虹となるまで



潮風に吹かれて立っている船医、イルカの海のノイズ集める



トビウオが付いてくるからこの船の行く先々に海鳥の島



水夫たち清しき朝漕ぐオール 小舟に乗って行く無人島



波が見え水夫のオール流れ来てやがて小舟も綱も流れて



春の雪、驟雨、小さな船に降り 海の楽器のような風吹き



一生を海図もたない旅をして海に降ります珊瑚の粒子



夏の夜、冬の夜明けの海の色 水が燿めく真珠色して



波の音、連続あるいは不連続 戦士休息する波の音



夜明けには茂る葉蔭に一艘の小舟を隠す海人の村



海に生き海に死ぬ人さびしさは限りなくとも海はゆりかご



双魚棲む大陸棚の窪みにはアトランティスの隕石の跡



曽祖父の航海日誌は燃え尽きた海の記憶の一章匿す









「包む」歌会






<詠草>

ここに包んできたのはあなたへの愛 でも引用禁止です

星空のプテラノドンに出逢ったら 虹の卵をみごもっていた


<番外詠草>

わからないのは○○だから 言ってしまえば簡単を舌で包んで転がした賽

つつまれて眠る幸福 まどろみに千の蝶々通う四阿(あづまや)

雪が包んでいるのは橋 雪解け水と林の情景

恐竜の卵が孵る夢を見る 冬の街にも虹は生まれる

最初から鋤鍬にすればいいのに 刀なら鞘におさめて

大根でも洗ってなさいご城下の城下鰈 川霧がつつむ朝

野兎が跳んでいるからもうこれはつつみきれない歓喜の季節

丹頂の朱色に風の蓮華微笑 いつか夕陽につつまれていた

梱包し箱詰めの便届けようダンボールだから中は見えない

透明な卵がもしもあったなら 私は卵にはなれません






「音」歌会 



<詠草>


突然に子の命奪う終り来る 薫風に鯉幟無き五月の矢車

などという悪夢を見たり子は笑みて花野を カタカタはカタカタと鳴る

白馬童子、「月光仮面」を知っている?夕ぐれの路地で聞く「怪傑ハリマオ」

洞窟の奥の地底瑚 水脈の何処より来て鳴らす水琴 

地下水の音聴く町の底深く 酒造会社の地下伝う音

でんでんむしまいまいつぶりかたつむり陸生巻貝、若葉食む音

蛙、蛇、鰐、棲む河に雨が降る 雨のアマゾン昼の遠雷

春の日の地下水の音、武蔵野の機関区最後のトンネルの

その殻の内側からもつつく音 やがてあなたのヒナが生まれる

桃、杏、さくらんぼうの実るころ虹の子どもの孔雀の産声

竹林を驟雨過ぎ行く暁に雉子鳴くゆえに明日は善き事

雨の町、鈴鳴るように初燕 燕が飛べば美しい夏

バタァ溶けジュワと焼ける匂いして 今が檸檬を絞り込む瞬間

鎖曳く犬がいるからチャリチャリと鎖鳴るから引きずる世界

起動音、受信する音 機能する音はしずかに充ちて来る潮

魚眠り海草眠り貝眠り海辺はあさき春のトレモロ

海沿いの旧街道の宿場町 鶯が鳴く酒舗の梅林 

洋上を遥か風立ち 飛べざればヤンバルクイナは啼くばかり

明日まだ生まれない風が痛みに堪えて生まれてくるよ

千年の時を流れてきた風のその音を聴く風過ぎる音

剥落は音なく目にも見えなくていつか私の全てとなって 

瀬戸内のポンポン船の船止まり 潮待ち船を洗うさざなみ 

海と砂、水の記憶のたどりゆく指の向こうはすべて水色 

虹を呼ぶ始祖鳥の子は虹を呼ぶだって迎えに来てねいつかね 

起動音だって思った不死鳥が宙の故郷めざし翔ぶ音

石たちがお喋りしているカワラヒワ蝦夷山鳥のように日溜りで

ひとすじの血をもて繋がる雛の声雛の羽ばたき殻が破れて 

池の面に龍頭鷁首の船浮かべ桜かざして舞を舞う光源氏に楽奏じよう 

管弦と詩歌の他に用もなき春の夕べは音もなく暮れ 

竹群に雪吹き付けて過ぎる頃 春の音立て流れる清水

禽獣はなべて楽しむ春の日は若草を焼く草炎える音









(自遊室・自由詠)

蒼き狼〜実朝出帆





十年後、群れを離れた黄金の牙を持つ象 墓場に戻る

夜の風、月光の海、難破船 十年後の波打つ渚

生きてゆくことが大切 十年後、私という軽いコークス

殺人の事件現場の十年後 満月なんか美しくない

そういえば 青海原のポセイドン 深海の愛届ける明日

そういえば鶯の来て鳴く梅林 谷保天神の石段上れば

鶯のささ鳴き聞けば春は来て 紅梅色の朝も始まる

ある時は浦島太郎ある時は花咲か爺さん夢の種蒔き

海亀を苛めた「村の子その一」の××年後の舞台の煙

足枷も手枷もあらぬ此処ぞ知る水昏き世にも薄あかりさす 

春の日の鞦韆ゆれて雲飛べば馬頭琴鳴る西域の風

焼き蟹の赤き甲羅と牡丹雪 尾張名古屋の望郷の宴

めひかりってどんな魚なんだろう海を歌えば少年H

砂浜の松に忘れた衣なら汚れ破れて潮騒ばかり

薬ありて生きられるなら薬ある幸福思い生きて楽しむ 
 
鎌倉の由比が浜まで来てみれば 実朝出帆 茜射す浜 

鎌倉の海山抜ける切通し 広き海より愛(かな)しき心





花 野




なにかしら真実疲れた思いあり花野を歩く馬を羨む

今はもうただ独り在る心にて日の暮れがたの坂くだりゆく

わたくしが雨であるなら弾かれて草の葉つたう雨の一粒

雪が降るかもしれないとい言っている ユキノシタは緑の薬草

爆心地グランド・ゼロの記憶より無花果の夕べ滴る乳の










雨 期







鬱兆す雨期の森には幽かながら杳い遥かな麝香の匂い  

森に棲む鹿も兎も白鳥もオベロン様の劇の観客  

オベロンさま〜もういい加減になさいませ王の威厳にも関ります

オデットよ私はジークフリートではない唯のオベロン森の支配者

私の役目は王の王でありそれ以上でも以下でもないこと







殆どもうお終いと思うのは頤や顎、涼しげな項などのせい

湖のほとりを車が去って行く電話している女主人公

もう一歩車が岸に近づけば「突然炎の如く」の最後の情景

知らないでいるのはいつも一人だけ鴉が運ぶ巣の枝一枝

ねぇ起きて、起きて私の相手をして私の猫は待ちきれません

いつか来るはずの約束、いつか来るはずのその人ゴドーを待ちながら







白いサルスベリ







明日の朝だあれもいない校庭に葉っぱ生やした木に似た鳥が

フェニックス大きくなって前庭の大部分さえ覆い尽くすほど

そういえば誓ったはずだ学校の夾竹桃が見ていたはずだ

溜息と絶望歌うことのない夏が来るのね白いサルスベリ

まどろみの時間が貴女を癒すよう祈っています 温かいね 雨 

すべて終り、もう何もないと歩く時、道にはツツジ炎え始めている

「亡き名聞く春や三年の生き別れ」丈草の句の中の人影

燕の巣、薔薇色の空 雲焼けて螺旋階段の明治の旅館  










午睡する森







重量を預けてゆらりゆらゆらと象の花子は木洩れ日の中

井の頭公園水も木も光る 50年間鼻揺らす象

クヌギ・ナラ光る小径を草笛が 誰かの吹いている「グリーン・スリーブス」

きらめいて湖面はボート浮かべている 水鳥幾羽午睡する森

山紫陽花、牡丹、芍薬、百日紅 梔子パオパオ熟睡する象



井の頭公園の象、象の目がまどろんでいる 恒河沙の夢  

お釈迦様 象の花子が行きますよ もうすぐ貴方の菩提樹の下  

ふるさとの涅槃の釈迦の寺に立つ樟の大樹の夢の千年  

やがてゆく菩薩、観音、如来にて朝陽、夕陽の石窟寺院  

眠る象、眠る釈迦無二 菩提樹はいのち養う至福の眠り  



微笑んでいるお地蔵さん前垂れの赤い地蔵が蝶とまらせる  

紫陽花も川のほとりに咲く道の九道の辻の地蔵公園  

孫の手を引いて通っている人の地蔵に花を届ける人の  

鯉を見てとりどりに咲く花を見て公園通りの日が暮れるまで 








祥  * 『 毅 歌会 1 「原人の海図」 * 23:24 * comments(0) * trackbacks(0)
このページの先頭へ