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銀河最終便  1章  海の絵 

               
海の絵


森の樹の小枝であったその時も風は知らずに吹きすぎていた
虫喰って風に倒れて流されて海を漂う流木になって
貝殻やわけのわからないものたちが私の身体に一杯ついて
貝殻を取りたくたって離れない中から腐るだけの流木
でもやがて魚が中に入って来て 私は魚になっていました
「太古の海」「盆の海」など話す時ジャック・マイヨール氏自殺の訃報
絵葉書のグラン・ブルーに百匹のイルカが描く海の曲線

絵葉書の海の底にはプランクトン 鮫や鯨の重なる屍骸
海は待つ 海底(うなぞこ)杳く藻のそよぐ 竜宮の亀、浦島を待つ  
紫雲出山、仁尾の海辺に佇めば太郎の亀も来る燧灘 
海水を一杯入れた大盥 大海亀の甲羅も光る
天蓋を支えて亀は永遠の孤独の賢者 風に吹かれて
海と砂、水の記憶のたどりゆく指の向こうはすべて水色
夜明けには太陽昇るその海の水平線の傷よ 海の絵
約束はまだ果たせない花便り 渡海船は一日二便

絵葉書の余白に滲む海の色 桜前線黒潮育ち
観音寺、豊浜、箕浦、伊予三島 夕日に染まる金色の海
暮れ残る琴弾浜の銭型の寛永通宝、砂に描く文字
雨の音聴きながら見る財田川 財田川河口の廃船
牡蠣舟の残骸のこす財田川、三架橋から見る冬の川
三架橋、琴弾八幡、神恵院 楠の大樹と涅槃の釈迦と
眠る象、眠る釈迦牟尼 菩提樹はいのち養う至福の眠り
ふるさとの涅槃の釈迦の寺に立つ樟の大樹の夢の千年

金色の海に浮かんだ島影が遠くなるまで夢になるまで
洞門を舟がくぐれば海光る 水の耀き海の輝き
玉藻よし讃岐の国の玉垣の八幡宮の鯨捕る絵馬
北前船船主寄贈の随身門 金襴、緞子、祭礼の絵馬 
海上を西に東に往来し 北前船は夢運ぶ船でありしか
雨霧城、由佐城、仁尾城、九十九城 讃岐は城もお結びコロリン
重なって重なってゆく音韻のさやかに平安京の名残りの
百合が咲き水仙が咲く断崖のせり上がりゆく波の先端

急坂をのぼれば台地、八幡と隣りあうのが主と西新屋
長屋門の片袖使って開局し水色のペンキ色褪せてゆき
時を隔て波を隔てて語りあう 幾千の闇越えて見たもの
風でした海を渡って行ったのは 主従八十余騎の武者絵の
キリスト教布教を許した戦国の武将は微風を纏うその人
海を見る覚城院の一隅に在りし都の花零れ咲く
風ならば無人の島の廃屋の枇杷の木の葉もそよがせるのに
浜辺には連歌の人の庵跡 遠浅なれば青の漣

大徳寺襖絵に見る花鳥図のエネルギッシュな中世の力
その人が愛した茶碗と掛け軸と歌に連なる一筆の書と
一滴の血のつながりのありやなし 四季花鳥図のかささぎほどの
一切の敵に離れて春の城 連歌に遊ぶ 滅びてあらむ
城は火を放って落ちる 自害してその人の子も夢も炎に
そのように自害した人幾人も連枝連雀、炎の蒔絵
姫神の曲も終わってふるさとの潮騒すでに聴こえなくなる
やがてもう死もなく生もない世界 時が洗っていった砂浜



祥  * 『銀河最終便』  * 14:23 * comments(0) * trackbacks(0)

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