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銀河最終便   2章  硝子の狐  

硝子の狐


実存が話してるからドン・パブロ 隠れていても堕ちたりしない
水棲人、木棲人の洞の奥瞼ひらかぬ魚や蜂の子
忘れられさびしかったと三日月が小舟浮かべる春の湖
一人でいい一人がいいと春の月 いつしか水に還った海月
病み疲れほろりはらりと紫木蓮 月へ帰ってゆく泣き兎
あるものは今宵離れゆく大空を火の粉が舞う火の鳥だろう
雪じゃない花が散ります桜ですこれが最後の波瀾万丈

見憶えはこの薔薇色の蛇にして石棺守る女王の蛇
舌あれるほど食したる蝶・葉虫 蝦蟇も蝸牛も篭もれる枯葉
潮の海 でいだらぼっち身を浸す 肘・膝、擦ってゆく鮫・鯨
銀青の燐粉散らし甍越え 水惑星をこえてゆく蝶
宙をゆく風の帆舟や月の馬 虚空の底に湧く星の砂
磁気嵐すぎゆく月の砂漠にも月の仔馬や兎が眠る
流されて流れて待てば億年の氷河の底に眠るマンモス
ゆうべ聞く冬の雷、冬の雨 草木地下に眠る幸福

ロシアには永久凍土(ツンドラ)という水凍り水を湛える森林がある
合法的脱出をしたのね透明なある日世界の隙間を抜けて
いつしかに逸脱すれば逸脱の果てに青空流れゆく雲
人生を楽しみましょう 降誕祭 冬には冬の日の美しさ
禽獣はなべて楽しむ春の日は若草を焼く草炎える音
もう終わりもう死にたいよ枇杷色の空に溶けてゆく夢の水色
起動音、受信する音 機能する音はしずかに充ちて来る潮
洋上を遥か風立ち飛べざればヤンバルクイナは夢見るばかり

その人に夕べの愁いあるらしき うすむらさきの硝子の埃
瑠璃、青玉、翡翠、水晶、硝子体 ルネ・ラリックの硝子の小壜
火の髪の火の飲食の弱法師 夏来ればニンゲンを返せと
武蔵野はむかし飛火野 飛火野の野焼きしてみよ硝子の狐
鸚鵡にはおやすみなさいを教えよう硝子の小壜が涙壷とも
もの憂くて倦んで疲れて死にたくて心の奥のガラス砕けて
この空の見えない玻璃を突き抜けてあなたの鳥が飛んでゆく秋
憂愁・苦悩・絶望・悲惨・呪詛・傲慢あなたが見ていたのは万華鏡

青空の硝子のような輝きの真中を進む黒の一隊
夏蝉は遠く遥かに死絶えて 私を待つ瑠璃の一族
一冊の書物のように傍に置く 氷のような硝子の文鎮
今日もまた夢を見ている夢見ればあなたに逢える 硝子の狐
詩と音楽、珍味佳肴につきものの二つも盛って硝子の器
ボローニャの腸詰、マラガの干し葡萄、海老も冷たく硝子の大皿
難題は遡っても玻璃に映る残照のような当主の浪費
山海の珍味蒐めて還暦の馳走配って血潮の玻璃皿

岩手県江刺市威武師字菊池 物語りせよ吹雪やむまで
四月尽 見知らぬ駅で降りてみる花降る銀河鉄道の夜
なぜこんなにさびしいのですか 鼬だったらわかりますか
なぜこんなにさびしいのですか 白ふくろうにはわかりませんか
なぜこんなにさびしいのですか 面ふくろうって可笑しいですね
なぜこんなにさびしいのですか なぜ教会の屋根裏が好きなのですか
なぜこんなにさびしいのですか とうとう鷹と争ったのですか
なぜこんなにさびしいのですか もう夏は終ったって知っていますか

永遠をただ待つ亀がいてもいい セント・ジョージはガラパゴスで待つ
また明日夜間飛行機飛び立つよ サン=テグジュペリの郵便飛行機
木は眠り木は育つ霧の森 木の海は遥かな心育てて眠る
さびしくてたまらないから逢いに来てマイアサウラの木霊する声
薔薇色の空をバックに立っているヒマラヤシーダの大きな影が
淋しくてひとりぼっちで悲しくてヒマラヤシーダの枝走る栗鼠
雪だるま スノウマンにも春は来て 溶けてしまった夢の紫
そんなにも羞ずかしがりやのきみだから残して帰る春のヒマラヤ


祥  * 『銀河最終便』  * 14:20 * comments(0) * trackbacks(0)

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