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銀河最終便  3章  白い孔雀

銀河最終便  珪蓮 ’鬚す雀


白い孔雀

晴れの日も雨の日もなく薄氷張る一月の水甕の水
高貴なるという幾人か高みにあり群集は振る小さな旗を
青狐、子連れの狐、絶海の孤島に棲んで万世一系
耐性菌少なくなって死んでゆく 漂う卵、水槽の澱
岐阜蝶のその営みは静かにして葉裏に卵産みて休めり
レプリカの剣、神器となるもよし更なる軽さ求めてやまず
「自虐史観」あの人たちはよくそう言う 他虐よりよいかと思う

その国は阿片の毒に酔ったように日本の下にも苦しんだこと
私は何も知らないことを知る この隣国の通史でさえも
先週は鯨が死んだ入り江があり海豚も死んだ 四月の渚
春の夜の夢は幻 過ぎゆけば シルヴェスター・リーヴァイ楽曲の誘惑
アドルフと言えば私にはコンスタンのアドルフ ヒトラーじゃなく
ニコライの治世の終わる頃出でて帰ることなき懐中時計
1516年レオナルド・ダヴィンチが来るフランソワの部屋
黙示録の頁を捲る風があり今ほろほろと崩れゆく塔

「始まりは鳥が運んだ一粒の種」であったとナレーションに言う
大いなる樹があり樹には魂が春の日向を流れるように
石積みの隙間を水と草が被いやがては水と草だけになる
水惑星わずかに歪みなお僅か自転の速度早まるという
荒廃はなお魂に及ぶから タイタン画像の水の痕跡
ホイヘンス降下してゆく風の音 地球に届く風の産声
三月の乳白色の空の下 白木蓮の花に降る雨
何回も書き直した線が綺麗であるわけがない推敲を認めない

退屈な木曜日です午後三時 孔雀時計は宮廷で鳴る
意味もない不安なのかも漣がひたひたと今砂地を洗う
北限の猿は追われていたりけり 青森、下北半島脇野沢村の猿
カンガルーの赤ちゃん2,5cm体重 1g! 私の猫が目を瞠る画面
空き地には蛇苺熟れ三輪車漕ぐ幼子の足も見えてくる
完璧に停止している何もかも この苛々はそのせいなのだ
全部嘘、たとえそれでもいいじゃない 舞台には降る太鼓の雪が
千年を遥かに越えて生きている大きな樹ならわかってくれる

私ならきっと話してしまうだろう 枇杷の木に吹く風のことなど
楡の木が育てる水の豊かさを確かめている春の雌鹿
円柱は静かに光浴びており甲府湯村のエンタシスの寺
土色の遺跡の中の壁画には極彩色の釈迦とその弟子
日干しする煉瓦に命奪われて石窟寺院の壁画の剥れ
魂に低温火傷あるらしくまだひりひりと 小雪降る夜
金箔と漆がつくる空間に珊瑚の粒子のような残照
明日から弥生三月 こぶし咲き木蓮が咲き名残り雪降る

この人の心に傷をつけたこと多分一生忘れない思い
夜毎聴く魑魅魍魎や鵺の声 異形の鬼を垣間見る春
夢の中夢から覚めても騒ぐのは赤い和金の金魚注意報
フランソワ一世、黒い毛のプードル 引っ越してゆく人の飼い犬
浮き島にユリカモメ来て鳴く夕べ サティのチョコの溶けゆく甘さ 
効き過ぎる薬は効かない薬より怖いものだと年寄りも言う
人は人、私は私 春の日の気球が浮かぶ空の水色
沖合いに浮かんだ大きな貨物船 係留されてだるま船もゆく

さらさらと細雪降る雛の夜 明日東京は白い街になる
大小の足跡つけて雪の道 三月四日歩くほかなく
春なれば蛙も土竜も顔を出し記念撮影するらしかしこ
あるいはそれは自信の問題かも知れず水仙の咲く水辺水際
川岸の鴨が寒さに蹲る 鴛鴦模様の彩色の鴨
春の日の猫の集会、妊娠をしているらしい白い雌猫
昨日より暖かくなる季節の中 陽炎もえるようなさびしさ
風はただそこに吹くだけ木はそこにただ眠るだけ 水よ流れよ

宮崎県産シラス、しらす干し 未だ幼く海を忘れず
いいのかな、言われっ放しでそのままで 理路整然と片づけられて
菜の花のような四月の日暮れ時 あなたは元気にお過ごしですか
私はこの頃空を見ていない 花の向こうに空はあるのに
ただ眠り眠り続ける春の日の三寒四温身を過ぎてゆく
火を煽る風があるなら火を鎮め心労わる風もあること
大切な一人の不在 鳥はもう海峡を越えただろうか
この世という遠いところに二人会いやがて離れゆく二つの影か

鳳凰が羽を休めるその閑に歴史は動く動かされてゆく
春の夜は眠れ眠れよ夢ふかく 泡浮く水の中に病む魚
題詠の「背中」まで来てさらす背の 尾羽ふうわりと雪の白さに
何事も無かったことにして終る なお見解を異にする鯊
花言葉、検索されている文字のどんな言葉も分身の花
永遠の命を持った木のように静かに雨を聴く雨蛙
水曜の午後もまだ降る春の雨 シャガ、花大根、連翹に降る
その麻は雪に晒され藍鼠色の小千谷縮みの涼しさとなる

「私にはもうしてあげられることがない」医師である人の言葉を思う
見放され見棄てられたと感じている 強制収容所を想像している
優しさが残酷さでもあるような晩春の風身にまといゆく
遠い昔 遥かに遠い昔のこと 埋め立て以前の風の砂浜
香櫨園、芦屋、魚崎、石屋川 生まれ育った街の水際
潮風と海の匂いのする駅は阪神電鉄、香櫨園駅
ちょっとした偶然、それで人生は決まる 霧が谷底から湧いて来る
恐ろしい真実は唇が閉じたがって言えない春浅く黄泉をゆく舟

山麓の南病棟、陽が当たり月も仄かに射してよいと言う
賑わいの市に背を向け山麓の道の傾斜をゆっくり上ると
十三年前のあの日を忘れない 無防備だった心に出会い
そして今も初めて会った日のように無防備なまま生きている人
氷雨にも耐えた桜が微風にも散ってゆきます春暮れる頃
紫の雨が降るらむ 六甲に硝子を伝う雨があるらむ
花に鳥 何の憂き世と思うまで 花喰い鳥の憩う時の間
永遠の憧れとして存在する 白い孔雀であった火の鳥

水辺には淡いピンクの睡蓮とウォーター・レタス数匹の稚魚
辛夷散り山桜散る野火止の黄の菜の花や大根の花
紫の花だいこんに陽はさしてしずかに時は流れてゆけり
燦々と降る月光の川があり 筏となって流れるさくら
春雷が通り雨にも伴って 執拗にまだ糸を張る蜘蛛
人生に幾つの闇があるのだろうたった一つの闇にも消える
失ったものは言葉や物じゃない燃えていたのは火鼠の皮衣
おそらくはそこにはいないあの人に 二度と逢えない胡弓の楽に

恐竜の痕跡こそが大切と毟り取られる鳥族の羽根
どの鶴がリーダーだろう海を見て河を見て越えてゆく
何事もなく過ぎたわけじゃない何事もない毎日を望んだ狐
知っています?おけらの花が咲いています万葉植物園の陽だまり
ゆっくりと俯瞰してゆく鳥の眼の視野の外なる彼岸の桜
フリージァが咲いていることにも気づかずに桜ばかりに気を取られていて
溶岩の隙間に生まれた鳥の子が 雪降る湖の雪を見ている
悲しみを悲しみとして生きてゆく素直に生きて縊られる鶏

音楽も色彩もまた上昇する 風は砂漠の形を変える
目前の死が急がせて1200点の作品群が生まれる
鉛筆の素朴な、いえ巧緻な一筆描きのクレーの天使
究極のシュールは写実であるというダリの直感的なパンの絵
ガラの言う宝石よりも美しい麺麭一欠けら春の晩餐
巣穴からジャッカルの子が顔を出す海辺の砂漠に生きるジャッカル
川底の石に似ている何かがいて動き出します 山椒魚です
暗闇が夜明けを連れてくるような 行き止まりには海あるような

清浄な骸は光る 透明な雨の雫のような音楽
コククジラ、虹を作るという鯨 東京湾は今日花曇り
雪舟作「四季山水図」に描かれた雪舟四十八歳の退屈
後ずさりしている蝦蟇の背後にはヤマカガシ棲む雑木の林
倦怠は秘かに兆す夏の日の陽炎ゆれる道に水辺に
二年余り花を見花の枯れるを見 淡い時間が流れて消えて
かなしみの極まりゆけば他愛ない指人形や影絵の劇が
特になし何にもなしという理由 理由に非ずと退けられる

彼岸への旅に似ている巡礼は 夕暮れ時に飛ぶしろばんば
雨期の森 蝶、蝉、飛蝗、ヤマセミの運ぶ餌にも流れる時間
花を食べ木の実を食べて育つから綺麗な声で鳴くのだろうか
黄金色の鶏がいて薔薇咲いて 絵本の 中の噴水の青
ST波下がる理由はともかくも暑い季節に散歩は無理です
藤の木に白い藤咲き藤散れば夏が始まる水無月の川
重なってゆくとき理由は消えてゆきただ憂愁の兆す夏の日
赤裸々に生な自分を描けと言う『アドルフの画集』の画商の言葉

もう一度海への手紙書いてみる 梅花うつぎがまた咲きました
さみどりの欅若葉や花水木 季節は移るふりむけば夏
退屈で死にそうなのと青虫を産みつけに来た揚羽がひらり
大切なものも次々消えてゆきもうおしまいかな十薬匂う
一切は流れ流れて空の果て 彩雲生れて老残を見ず
サボテンは水がなくても生きるのか駱駝は水を湛えているか
夏なれば守宮もガラス這うらしき感情という棲家に入りて
こんにちは おはよう おはよう こんにちは 鸚鵡のように交わす挨拶

ボラボラ島 エアーメールの写真にはその「絶海の孤島」が浮かぶ
新説は仲間を見分けるためというステゴザウルス背中の秘密
仲間を持ち家族をもって恐竜は群れて集って滅びて行った
恐竜も鯨も虹を見たかしら 嵐が置いてゆくという虹
苦しくてならぬと傾いでゆく身体 大王松の一生終わる
お終いになるまで少しある時間 木は空洞に音を楽しむ
淡竹茹で蕗茹で雨の日の無聊 雨には雨の光りあること
ただ踊る 踊るに任せ褒めもせず叱りもせずに育てるという

六月も今日で終りという朝 花も蝸牛も聴く雨の音
一本の木になったとき一本の木は汲み上げる水の百年
蜂蜜のようにとろりと金色の夢を蒐めて海馬は眠る
「天邪鬼」それは私だ 炎え上がる不動の像の下の石塊
雨降れば雨の三鷹の禅林寺 あの頃はまだ小堀杏奴も
えごの木の花降りやまぬ夕つ方 彼岸の風もここ過ぎながら
その人の瞳の中を落ちてゆく夏降る雪に似てえごの花
また今日もすすき、刈萱、萩、桔梗 音韻として生まれる生は

疲れきって頭の中が空っぽだ 鳥が羽ばたく 空の濁音
来週の二十四日は河童忌で芥川龍之介が命絶った日
この後の悲喜にどうして堪えてゆく靄と霞と霧の差ほどの
古典と言い伝統という様式の劇性露わにしてほとばしる
カジャールという小さな村に眠る人 サガンの白いただ白い墓
憂鬱は深くしずかに潜行し木に咲く花のように身を裂く
この雨に変わってもうすぐ蝉時雨 二十四度で初鳴きという
退屈という名の至福あるように弛緩している七月の蝶

黒塗りのただ一艘の盲船 竜神祀り天翔ける船
緋縅の鎧冑に金色の太刀持つ人の漆黒の船
遠く聞く 夏の祭りの笛太鼓  子ども神輿も笹括り付け
厄除けの団扇を買ってきておくれ 烏小天狗、魔除けの団扇
幽かなる光りの糸を吐きながら蜘蛛が紡いでゆくいのちあり
もう誰とも何とも関係したくない そういうわけにも参りませぬと
燃える火のようなカンナと消火栓 夏が烈しくそこに来ている
わけもなく悲しい気分になるという旅立つ人の行き先は遠野

惑星の名前はセドナ 極寒の凍れる星の海の女王
鯨骨を棲家とする老婆 指無き海の神よセドナよ
ここにだけまだ少しだけ夏椿 別の名を沙羅 沙羅の片枝
時に霧、時に野分の立つところ東京の果て日の入るところ
まだ生きていますけれども生きてないそんな気がするかなかなが啼く
日常はそんなときにも日常であったであろう投下直前
耳下腺がまた腫れている 夏空の下に蝉の死屍累々
このままで死んでしまえば虚しいねカランコロンと夏の坂道

隻眼の猫の名前は六郎太 黒猫、黒田六郎太と聞く
春の夜の夢はまぼろし隻眼の豹のまなざし遥か遥かの
春蝉の骸うずめて枇杷の木は 坂道に立つ海の見える家
ミンミンがなお鳴き交わし鳴き尽くし 海に降る雨見る夏の駅
今朝は雨 小雨降る朝 尾道の造船所跡のセットが煙る
何もかもと言って誤魔化す他はなくこの憂鬱のほんとうの理由
鉄筋の庁舎、橋げた、墓地の跡 ここに暮らした人々の気配
アルルには円形闘技場がありゴッホも見たかもしれない羅馬

死ぬことを考えるのはまだ早い 驟雨が過ぎて会う夏燕
竹杭や石など積んで堰きとめて簗を作って捕る山の魚
右目だけ開けて見ている世界にも虹の飛瀑は溢れて消えて
半眼をひらいて河馬が眠っている 小さな耳の河馬の母と子
半眼の河馬の一日 終日を水に浸かって何を想って
栗よりも大きな栗に似た木の実 西洋とちの木マロニエの道
白い蛾が浮かんでいたよ水盤に 睡蓮鉢の隅っこに寄り
うっすらと薄日も射してみたりする「断続的な雨」の合間に

休止するジャングル化した野草園 秋の七草月に供えて
小平の中島町の薬草園 桔梗、甘草、花咲く明かり
悲しみを忘れるという花言葉 薮甘草の朱に埋もれる
虹よりも虹に似ている水溜り一杯に今広がる油膜
常夜灯一つともして幕は下り舞台に残る一枚の羽根
特別のことは何もなく終わる命をまた見てしまう
こうなったのはあっという間の出来事だったと青いテントの男
ここでもうお終いですというように春の日向の夢見るように

半地下に水が入って水浸し 隠れ家としての役目が終る
その視線遮るための遮蔽幕 絽か紗くらいに透けてはいるが
いっぱいに儚い夢を詰め込んで膨らみ続ける蛙のお腹
限りなく膨れ上がった政権党 破裂するまで膨らんでゆけ
お終いは突然に来てレクイエム奏でるように蜩も鳴く
緩慢な自殺を遂げているように春夏が過ぎ秋冬がゆく
ストーブや焚き火が好きで洋燈や篝火も好き 火の色の秋
白珊瑚 珊瑚の海の薔薇の精 小さなピアスになってしまった

どことなくいつとなく暗い顔 生きる力を問われているか
働かず寄生しているヤドカリが宿を失くせば浮遊する雲
脱皮する蛇の営み待ちながらターシャの庭の歳月めぐる
遠い死が私を呼び 明日さえも知らない夜の蟋蟀がいる
日ごと死は近づいていて一心に後生の大事せよと古典は
なんて簡単に言う私を怒るだろうか叔母は 綺麗な骨だった
白骨の書に言う「後生の一大事」徒然草にもあったと思う
音楽のように一音ずつのばし僧が経読むとき起こる風

八戸から野辺地へローカル線の旅 放牧された馬の歩く道
堪えかねて噴く火の色の美しさ千年神の水を湛えて
田沢湖は龍伝説の湖で湖の岸には一匹の雉猫がいた
少し前まで誰かを愛していたような真っ赤に炎えている七竈
黄色くて斑点のある物体は 春の轍に轢かれた蛙
栗、胡桃、渋柿、百目、酸漿の色に染まった夕日の里の
お土産を郵送されておりました夢のまにまに木彫りの熊を
生きている虚しさよりも貝よりも静かに波に触れる儚さ

慎ましい祈りのような暮らしには殆ど適さぬことも思われ
この身体一つ失くせば新しい世界が視える夜明け前にも
銅版の腐食をいつか愉しんで 紙片に写す頭蓋の形
烏羽玉のドン・ヴィト・コルレオーネ眠りける〈老女の夏〉と呼ばれる小春
また聴くよ1986年のマリリン、ミス・サイゴンのキム 本田美奈子さんにさよなら
煮付けって言えば鰈の煮付けかなエンガワのあの膠質の美味
桜咲く 小春日和のかえり花 大きな猫の眠る日だまり
人生の奴隷になっていないかしら この頃雨の音を聴かない

街に降り人に降る雨 鳥ゆきてゆきて悲しむ空の果てより
養蚕をしていた村の家々の藁屋根に降る月光がある
茗荷沢、淡竹の林、鉱泉池 水神祀る筧の小径
木小屋あり竹藪あれば踏み迷う 蜥蜴、かなへび、洞の蝙蝠
木小屋にも畦にも雪は降り積もり 露天の水桶、筧も凍る
貧すれば鈍するという然り然り 私の上にある冬の空
折り紙で作ったベルやキャンドルやトナカイなどもあって休日
手紙には童話の挿絵が描かれていて赤い蝋燭、金の燭台

祥  * 『銀河最終便』  * 14:17 * comments(0) * trackbacks(0)

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