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歌集『シネマ・ルナティック』/久野はすみ著













跋文 岡井 隆
装画、挿絵  カバー画「灯」スミダ ヒロミ
装本 倉本 修
収録歌数 253首
発行日 2013年11月10日
発行所 砂子屋書房
ISBN978-4-7904-1489-6
C0092 ¥2400E
定価 本体2400円+税



『シネマ・ルナティック』
何というお洒落なタイトル。
(ほんとうにある映画館の名前だとしても、
まるで、その映画館は、この本のために存在したかのようだ。)
このタイトルと、瀟洒なブックデザインが内容とぴったり合っている。
版画も造本も愛情が込められている。
この簡素であり贅沢でもあるフランス装の歌集『シネマ・ルナティック』は、
『未来』に所属する久野はすみさんの第一歌集だ。

私は、最後の頁から読んだ。
好きな歌も後半に多かった。
才気を抑え沈めて、対象の本質に迫る歌たちだ。
湧き立つような情熱を日常の中に潜ませながら、
何気ない日々を送る作歌主体。
比喩的表象の中に隠され語られる物語。


・その木だけ小鳥が群をなすふしぎ学園前の並木の中の

・人のいい役者は下手と決まってるわけではないが概ねはそう

・両うでにダイヤ毛糸を巻かれた日、その日より母の呪縛が解けぬ

・さみどりの草かんむりをのせてみる「お陰様で」の陰の頭上に

・いつまでも舌が憶えているでしょう薄きはがきを噛むシュレッダー

・格差とは闘わないときめたのでニセアカシアの蜂蜜とろり

・海沿いのちいさな町のミシン屋のシンガーミシンに砂ふりつもる

・悔しさに嗚咽のやまぬ少年はたまねぎのよう転がしておく

・思い出を溜めてゆくにはせますぎて脳(なずき)の隅にダリヤを燃やす

・これは絽よこちらは袷この無地を着せてと母は喪を待つごとく

・とおくとおく北の地平に火を見たと 十二の父の八月六日

・きまじめな朝の鏡をのぞきこみ母とはちがう眉山を描く

・貝印カミソリいつもしまわれて鏡台は母のしずかな浜辺

・長いものはもう書けないと答えたりなぜ歌なのかときみに問われて

・それじゃまた生きてるうちにと言いて立つ濃き珈琲を飲み干してのち


祥  * 『歌集、歌書、歌誌、その他書評』 * 20:11 * comments(0) * trackbacks(0)

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