銀河最終便
WEB日記

『玲瓏』90号 提出作品                 

 

 神戸 

 


海風と砂地が心地よい道を歩いて行けば見える赤い屋根 

洋館が珍しかった頃の屋根 今も車窓から見ればそのままに


ロシアより帰った人が建てたからニコライ時代のサモワールもあり 

ロシアから来たサモワールや本箱は引越しの時も捨てないできた

マホガニーの堅牢無比の本箱は帝政ロシア時代の名残とどめて

その古い役に立たない湯沸かしは今も私の部屋の片隅に 

お隣と我が家を残して焼け野が原 母が語った記憶とともに

空襲で焼けてしまったご近所と 二軒残った隣家と我が家

母がまだ若かった頃の隣家なる「櫻正宗」砂地続きに

防火水槽代わりに酒の大樽を隣家より頂くという 家焼け残る 

その年の神戸は焼かれ焼け残り 昔の洋館の暖炉と酒樽 

焼け出され、引き揚げて来た知人・親類も二年近くを暮らしたという

あの街を焼いた炎の中にいた当時の人も大方は死んだ

消え去った幻だろうその校舎講堂に置かれた死体

小学校校舎に残る黒い跡『火垂るの墓』の頃の名残と

酒樽が醸造用の酒樽が防火用水桶になった時代と

頂いた大きな大きな酒樽でわが家は燃えることをまぬがれ

結局のところ見知らぬ街となり 震災もあったし時間も経ったし

町の地図ぬりかえ町名も変更し不可能となる存在証明

花束が微かにゆれて陽がさして その陽のようなゆらめきの中



                2015年『玲瓏』90号



: 『「玲瓏」他歌誌提出自作品』 : comments(0) : trackbacks(0) : posted by 風間祥  :
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