<< 荻原裕幸さんの歌 | main | 本田美奈子さんが >>

飛永 京さんの歌

005:サラダ
睡蓮を風邪ひきさんの枕辺に 切り子のサラダボウルに浮かべ
011:都
銀色のイーストウッドが聳え立つ衰え知らぬ聖樹の都
013:焦
焦土には一番先に韮がでて真白い星を咲かせたという
019:アラビア
言いわけを信じたくてもアラビアの花文字ひとつどこかで揺れる
029:ならずもの
厭われて苅られるばかり庭の葛ならずものでも紫の花
030:橋
胡蝶蘭ふたつ並んで眼鏡橋のぞけばそこにインファント島が
034:背中
竜の髭、蛇の髭よけて雑草を摘むロンさんの背中は円く
038:横浜
横浜が開かれたとも知らないで帆柱を待つ出島の蘇鉄
039:紫
紫陽花の地球儀ひとつくださいな海の深さを示したものを
044:香
懐かしいひとの香りに似てもいて泰山木の花びら温し
050:変
今ごろは実のひとつくらい成してるか私の愛した唐変木は
056:松
馬尾松(ばびしょう)の花粉を乗せた西風はしゅうゆしゅうゆと知将を喚んで
062:風邪
暑邪(しょじゃ)燥邪(そうじゃ)
風邪(ふうじゃ)寒邪(かんじゃ)
火邪(かじゃ )厚邪(こうじゃ)
邪神の花見は
なんじゃもんじゃで
063:鬼
指のないお地蔵さんに仏手柑(ぶっしゅかん)ひとつ供えて鬼っ子は去り
077:櫛
こぎつねが使っていったか柘植の櫛からみついてる柔らか栗毛
079:ぬいぐるみ
綿の実を食べるコアラのぬいぐるみ耳の先まで胃袋にして
080:書
訳本を書いた人の名うつくしい蓮池薫 大地に根ざす



>焦土には一番先に韮がでて真白い星を咲かせたという

泥土にも、否、泥土ゆえに命のエッセンスを咲かせる蓮があるように、
原爆が投下された地、一木一草生えないと思われるほど完全な焦土と化した街に、
真っ先に芽生え、祈りのように「真白い星を咲かせた」という白い韮の花。
声高に叫ぶのではなく嘆くのでもなく淡々と歌われているだけに印象深い。

>横浜が開かれたとも知らないで帆柱を待つ出島の蘇鉄

ゆったりと車間距離とスピードを守るように書かれている100首の中に見え隠れする懐かしい郷愁を呼ぶような人々の暮らしと風景。愛惜の思い。
作者の自画像でもあり、時代の自画像でもあり、ある精神的特長をもつ人々の自画像でもあるような。
豪奢な夕陽を浴びながら無防備に無心に佇んでいる出島の蘇鉄。
没落してゆくことにも無関心に、無関心であるほどに裕福さに馴れて。

>暑邪(しょじゃ)燥邪(そうじゃ)
 風邪(ふうじゃ)寒邪(かんじゃ)
 火邪(かじゃ )厚邪(こうじゃ)
 邪神の花見は
 なんじゃもんじゃで

大津絵の神の酒宴のよう。
諧謔の精神は文体にも表れて、最も見事な意味で昇華された遊びに。
祥  * 『2005年「題詠マラソン」』 * 09:05 * comments(2) * trackbacks(0)

コメント

またまたありがとうございます。
別に誰にも読んでもらわなくてもいいやってのは
やっぱり強がりで、
誰にも解って貰わなくてもいいやってのは
負け惜しみなので、
こんなに丁寧に読んでいただけるひとが
一人でもいてくださることに感謝です。
また詠もうって思いました。
どうもありがとう。
Comment by 京 @ 2005/11/06 11:30 PM
おはようございます。
好きな歌だけを読んでいく私の読み方だから
いい加減かもしれないけど、
京さんの歌が読めて幸福でした。
今年もとっても好きな歌が多くて
良かった〜♪です。
Comment by @ 2005/11/07 6:21 AM
コメントする









トラックバック

このページの先頭へ