銀河最終便
WEB日記

風の連弾                 

・少しだけ暗いところが好きだった陽あたる丘に住んでいたから
・木陰から木陰へ続く小径より栗のいが踏み上る石段
・栗の木の栗落ちる音えごの木の実の雨だれに似て風に鳴る音
・くぬぎの実ならの実しいの実けやきの実かしの実も落ちよ風の連弾
・音のない雨を見ている音のない風を見ている一年の後

・風ならば初夏の小径を吹いていた 古井戸一つ隠す草むら
・つわぶきの黄色い花も咲いていた萼あじさいの群落の蔭
・王女という渾名のがまが待っていた 雨降る前の夜の玄関
・美しい楽しいことはもうないと街の隠者のように棲む蟇(ひき)
・「お母さん かたつむりって貝なんだよ」 六月の雨、雨の降る庭

・山椒の赤い実を腹いっぱいに詰めているよ香ばしそうな鳩だよ
・白黒のぶちと茶色の子猫が林で生まれてさざんかも咲いた
・あじさいの花の下にはかたつむり 雨降る午後の物思いして
・国分寺の家の樹に似て太い幹蝉がとまっている夏の闇
・窓際に誰かが忘れていった本 風が読んでる「梁塵秘抄」

・私も月の小舟を一人漕ぐ「梁塵秘抄」の桂男のように
・降る雨のように触れられないならばいっそ何にも無い方がいい
・今さらに何を求めて小綬鶏は午睡している榛の木を呼ぶ
・榛の木は応えられずに耳澄ます 崖を下ってゆく水の音
・ひまわりに似た花が咲く夏の朝それも晩夏の雨上りの朝
・往き帰り枯葉の寝床にうずくまる白い猫見るこの幾日か

・駅前にビル増えてきて柿色の空のむこうの富士が小さい
・国分寺崖線に立つ古家は嵐吹くたび傾いでいった
・夕暮になれば富士山影になり石段降りる猫も影になり
・どんぐりが帽子被って落ちているゆうべ風が吹いたらしくて
・傾いて立つ樹のように傾いて風の手紙を待っているだけ
・夕暮の富士シルエットになってゆく想い出だけで生きてみようか

           歌誌 「短歌人」・「未来」より

: 『歌画集「えごの花」』関連 : comments(0) : trackbacks(0) : posted by 風間祥  :
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