『やがて秋茄子へと到る』/堂園昌彦















定価2200円(税別)
発行所 港の人

一頁一首。
塚本邦雄さんの歌集のような、
今は稀有になった金属活字活版印刷、フランス装の美しい本。

19歳から29歳までの195首を収録しているそうだ。
亡くなった笹井宏之さんともまた違うが、
同じように詩集を読むような感覚がある。
人生に対して肯定的な健全さが際立つ。
この世を共生する感覚を持ち、
不安を越え、共に生きる人たちの再起をも促すような温かさを
根底に宿しているようだ。



・秋茄子を両手に乗せて光らせてどうして死ぬんだろう僕たちは

・空中にわずかとどまる海鳥のこころあなたと雪を分け合う

・生きるならまずは冷たい冬の陽を手のひらにに乗せ手を温める

風間祥  * 『歌集、歌書、歌誌、その他書評』 * 20:53 * comments(0) * trackbacks(0)

26歳で病死した笹井宏之という短詩型詩人がいた その作品   ◆櫚

 
・ひゃらーんと青い車が降ってきて商店街につきささる朝 

・真水から引き上げる手がしっかりと私を掴みまた離すのだ

・ひとりずつひかりはじめてもうだれも街を流れる星なのでした

・ファールっておもったときの地平線 あおくってひとたまりもない  

・鉄の巨大な円柱が海面へと突き刺さり誰かがピンナップと叫んで喉を潰した  

・釣り糸にからまっているえびの手をほどく いっぽんにほん くるしい  

・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔   

・靴音の消えたしまった街角でふいにモーツアルトがうたいだす  

・上空のコンビニエンスストアから木の葉のように降ってくる遺書  

・それは世界中のデッキチエアがたたまれてしまうほどのあかるさでした 



震災の前には、幻想的詩的飛躍と思えた一行が、
震災の後で読むと、リアルに迫って来る。
詩の神さまは、時々誰かを選んで、
彼らのノートに次の予定を書き込むのだろうか。

風間祥  * 『短歌について』 * 16:27 * comments(0) * trackbacks(0)

短歌研究「現代短歌評論賞」は、口語について、みなさんいろいろ

第29回 、短歌研究「現代短歌評論賞」の課題は、
「短歌の口語化がもたらしたもの」。

受賞作は、梶原さい子さんの、
「短歌の口語化がもたらしたもの
   ━━ 歌の印象からの考察」

統計を用いた説明。
「口語の歌は、子供っぽく感じられる」と書き、
その理由について、あるいはその功罪について、
考察する。

口語短歌から受ける印象を、幼児性、子供っぽさ、というが、
あまりに単純な受け取り方。
(その点では、朝井さとるさんの永井祐さんの歌などを挙げた部分の方がいい。)
「口語短歌の罪」として、口語では自然が歌えないかのようなとらえ方も気になる。
統計の取り方、例歌の選択の仕方、
穂村弘、俵万智止まりで、
ここ10年ほどの新人賞受賞作品を、
統計を取る感覚で読むことは読んでいるのだろうけれど、
最終的に、この人は、ほんとうに口語の歌を読んでいるのだろうか、
という疑問が残った。

受賞作はもちろん、候補作の中にも、
誌面に掲載されている限りでは、
笹井宏之さんの作品が取り上げられていないのも、
不思議だった。
風間祥  * 『日記』 * 14:50 * comments(0) * trackbacks(0)

『てんとろり』笹井宏之第二歌集

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












書肆侃侃房
2011年1月24日発行
定価 1300円+税

 

 

 

 

 

・ ウェブログの最終記事のさよならが風になるまであなたを待とう

・そのゆびが火であることに気づかずに世界をひとつ失くしましたね

・夕立におかされてゆくかなしみのなんてきれいな郵便ポスト

・百年を経てもきちんとひらきますように この永年草詩篇

・氷上のあなたは青い塔としてそのささやかな死を受け入れた

・世界って貝殻ですか 海ですか それとも遠い三叉路ですか

・学校のいちばんうえにある旗に知らない色の鳥がとまった

・さざなみのねむりのふちをゆっくりと宿をはずしたやどかりがゆく

・かなしみにふれているのにあたたかい わたしはもう壊れているのかも

・眠ったままゆきますね 冬、いくばくかの小麦を麻のふくろにつめて

・生きようと考えなおす さわがにが沢を渡ってゆくのがみえて

・風のみの川をひらいて朝焼けの、どこにもいないひとになります




       笹井宏之さんの第二歌集から、好きな歌を抄出させていただきました。

★<関連記事>
右上のこのサイトの中をキーワードから探す〔search〕窓から、
「笹井宏之」で検索していただければ、
過去に書いた記事も表示されます。



(以下、再録)

笹井宏之
2009.03.01 Sunday
0

 

音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔 /笹井宏之

他の歌人には越えられなかった厚い壁をかるく越える歌を残して、
笹井宏之は、ある日あっけなくあの世へ旅立って行ってしまった。
あっけなく、と思うのは、他人の印象であって、
笹井宏之自身にとっては、長い長い時間であったのかもしれない。

一生に一度ひらくという窓の向こう あなたは靴をそろえる 

窓の向こうに見えたのは虹?
透明な空?

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす 

眠らないただ一本の樹になる。
全ての人が見棄てた時にも、あらゆる人が眠っている時にも、
ただひとり目覚めて、感受し、受苦し、世界の傷について想っている。
多分それだけが詩人の仕事。
病む世界の断末魔そのものであることが。

  風間 祥  * 『短歌について』 * 15:10 * comments(0) * trackbacks(0) *  
彼はたぶん「死者の仕事」をしに行った 快活な死者、笹井宏之
2009.01.30 Friday
0

 

「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。」というのは、
堀辰雄の『聖家族』冒頭の有名な章句ですが、
笹井宏之さんの死にも通じるものがあります。

偶然にしろ、身体を代償としてしか伝わらないことの多い、
天才的な人たちの、ある意味定められた運命。

逝かれてみなければわからないということも
私たちにはあるのでしょうね。
一期一会と言いますが、
笹井さんが残して行った詩篇、歌、笑顔、コメントの優しさ。
素敵な贈り物のような気がします。

ひときわ汚れのない心と類い稀な才能を持った若者が確かに存在した。
それは幻でも何でもなく、
私たちは、この眼で見、読み、実感した。

この時代に生きて、
笹井さんの歌を少しでも読めてよかったと、
私も思います。

もっと長生きをしていたら、
もっともっと沢山の言葉を私たちは読めたかもしれないけれど、
苛酷なことではあるけれど、このような真摯な一瞬性を持って人々の胸に、
虚空を渡る彗星を見るような鮮やかさで、
広く伝わったかどうかは分りません。
死が、明らかに扉を開いたのです。

死者には死者の仕事がある、というのは、
堀辰雄の尊敬するリルケの言葉です。
笹井さんも死者の仕事をするために、
この現世を、ひと足先に旅立ったのでしょう。

今後もおりにふれて笹井さんの歌を読んでいきたいと思います。

  風間 祥 * 『短歌について』 * 12:20 * comments(0) * trackbacks(0) *  
笹井宏之さんの歌
2009.01.26 Monday
0

 

////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


・終止符を打ちましょう そう、ゆっくりとゆめのすべてを消さないように
・祝祭のしずかなおわり ひとはみな脆いうつわであるということ
・氷上のあなたは青い塔としてそのささやかな死を受け入れた
・百年を経てもきちんとひらきますように この永年草詩篇
・感傷と私をむすぶ鉄道に冬のあなたが身を横たえる
・ほんとうにわたしは死ぬのでしょうか、と問えば杉並区をわたる風
・夕立におかされてゆくかなしみのなんてきれいな郵便ポスト
・切れやすい糸でむすんでおきましょう いつかくるさようならのために
・玄関に大阪城がやってきてとてもかなしいと言って崩れた
・おそらくはあなたにふれていたのです 浜昼顔の眠りのなかで
・苦しくて路面電車になっているひとへレールの場所を教える
・あこがれがあまりに遠くある夜は風の浅瀬につばさをたたむ
・あのひとは階段でした のぼろうとしても沈んでしまうばかりの
・海沿いの小さな町を吹いている一陣のあなたに会いにゆく
・ひとが死ぬニュースばかりの真昼間の私はついにからっぽの舟
・雪であることをわすれているようなゆきだるまからもらうてぶくろ
・ひらかれることはもうないでしょう あの潮騒のきこえる世界地図
・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・こくこくと酸化してゆく悲しみがほのかに部屋に匂うのでした
・誰ひとり見向きもしない帆船に火の夢をみるように伝える
・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔
・ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
・もうそろそろ私が屋根であることに気づいて傘をたたんでほしい
・晴れすぎた空をからだに貼り付けて私は踊らなければならぬ
・あした死ぬかもしれないのにそれなのにどうして壁をのぼっているの
・ひだまりへおいた物語がひとつ始まるまえに死んでしまった
・さよならのこだまが消えてしまうころあなたのなかを落ちる海鳥
・眠ったままゆきますね 冬、いくばくかの小麦を麻のふくろにつめて

                                   笹井宏之


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

笹井宏之さんの歌を、「妄想」と言う人がいます。
詩性が高く、シャガールの絵の恋人たちや馬のように、
発想が飛びすぎるからでしょうか。
でも、私には、とても素直な、夢や祈りの歌に見えます。
詩人の生き難さと敏感さで、自身の早世を予感して、
いつでも別れを告げていたようにも思います。

笹井さんの歌が、笹井さんの歌の中の永年草詩篇のように
いつまでも読み継がれてゆきますように。

  風間 祥  * 『短歌について』 * 12:13 * comments(2) * trackbacks(0) *  
愛されるものは夭折するという【ひとさらい】とは神の異名か 
2009.01.25 Sunday
0

 

・魂の魚を降らせる天才と呼ばれる神に愛されし者

・一冊の歌集を残し旅立った 笹井宏之さんのゆく空

・天才は夭折するというけれど 笹井宏之さんの冬の死

ご冥福をお祈りいたします。
1月24日朝のことだったそうです。
思えば、昨年は、笹井宏之さんの歌集『ひとさらい』が、
歌壇に注目され、華々しいデビューを飾った年でした。
その直後の、あっけない死。
語り継がれる天才歌人は、伝説の世界の人でしかなかったけれど、
同時代に、目の当たりにするとは、思いませんでした。
言葉もありません。

★                 ★                 ★

以前書いた関連記事を再掲します。

今日の短歌誘拐/ 『ひとさらい』
2008.02.25 Monday

 

 

 

 

 

・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・雨ひかり雨ふることもふっていることも忘れてあなたは眠る
・四ページで飽きる本とかを背骨よりだいじにしています
・骨のような犬がいたので分けてやる 大きな千鳥饅頭のあたま
・ウエディングケーキのうえでつつがなく蝿が挙式をすませて帰る
・簡潔に生きる くらげ発電のくらげも最終的には食べて
・嫌われた理由が今も分からず泣いている満月の彫刻師
・完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり
・蛾になって昼間の壁に眠りたい 長い刃物のような一日
・家を描く水彩画家に囲まれて私は家になってゆきます
・この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
・あまがえる進化史上でお前らと別れた朝の雨が降ってる
・それは世界中のデッキチェアーがたたまれてしまうほどのあかるさでした
・ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔
・ブレイカー落としてまわる 人生に疲れたひとたちのなれのはて
・一生に一度ひらくという窓の向こう あなたは靴をそろえる
・からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする
・まっすぐに突けば誰かが殺せます 傘だったからよかったものの
・吊り革に救えなかった人の手が五本の指で巻き付いている
・日時計のまわりでわらを編んでいるいのちがついにかたちをとった
・果樹園で風をむすんでいるひとと風をほどいているひとの声

BooK ParK 1月25日発行(1260円)笹井宏之歌集『ひとさらい』より


★                 ★                  ★


今日の歌/笹井宏之さんの歌(題詠100首blog)
2006.09.30 Saturday
093:落(笹井宏之)
投稿日:2006-09-30 Sat

集落を追われたひとと釣りをする とてもただしいひとだったのに

085:富(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
富だけを持つひとたちが哀しみの椎茸を金盥で洗う


いいですねぇ。
笹井宏之さん。
文学における『リアル』を書くことの出来る人って、
こういう人だと思います。


〔再録〕

089:無理(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
ありったけの安心感を差し出してあなたは無理のあることをした

080:響(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
どちらからともなく音になりすまし夜の海へと響いていった

079:芽(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
おむかいの倉本さんが発芽しているので水を買わねばならぬ

076:あくび(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
あくびするあなたの横を爆撃機のように飛び立つ鳩の一群

064:百合(笹井宏之)
投稿日:2006-06-17 Sat
シゲヨさん、むかしのことをはなすとき百合にならなくてもいいからね

045:コピー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-24 Wed
太陽と月と砂しかない場所でひっそりと震えだすコピー機

034:シャンプー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-11 Thu
知られてはならないことをひとつずつシャンプーの原液へと溶かす


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  風間 祥  * 『短歌について』 * 12:00 * comments(6) * trackbacks(0) *  
永井祐、笹井宏之、山田航、 我妻俊樹、宇都宮敦
2008.12.29 Monday
0

 

綺羅星のように論客並ぶから2009年の短歌は熱い。 

一足早く走り出ていた既に高名な斉藤斎藤さんや、西巻真さんは別格。

笹井宏之さんは、論客というよりナイーブな詩人という感じだけれど、
言っていることは鋭いし、
勿論作品の方は、総合誌等に盛んに紹介されているし、
年間歌集を選ぶような特集でも、
大方の賛成を得て選ばれているから、
後は、現代歌人協会賞でも受ければ、
普通に歌壇の洗礼を受けることになる。
完全に取り込まれるかどうかは、
しなやかな詩人としての資質をより多く感じさせるから、
そうはならないのかもしれないけれど。
その位置的なキープの仕方が、
作品の創造自体に影響を与えそうな気もする。
それぞれ、既成の「短歌人」や「未来」といった結社に属してはいても、
一定の距離を保ち、独自なスタンスやオリジナリティを大切にしてほしい。

  風間 祥  * 『短歌について』 * 11:26 * comments(0) * trackbacks(0) *  
文体論としてならよく解る笹井宏之さんの歌二首
2008.12.14 Sunday
0

 

・完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり      /笹井宏之『ひとさらい』

・つよがりの筋肉たちをストーブのまえでややありえなくしてみた     
/同


美意識、嗜好と言いなおしてもいいが。
それにしても「ややありえなく」 されるのは、
ものすごく怖い。

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穂村  で、実際、今回読んで、やはり、わからない部分をここに含んでるんですよ、僕には。
   
   完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり 

って、これね、「完璧にならないように」がわからない、何を言っているのか。次の歌だと、

   つよがりの筋肉たちをストーブのまえでややありえなくしてみた  

この「ややありえなくしてみた」がね、わからない、何を言っているのか。

    (引用終り〉
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

※『新彗星』
対談 穂村弘と語る
『ひとさらい』と現代短歌
加藤治郎・穂村弘

P.53 (引用部分以外にも、この後も、「わからない」談義が続く〉を読んで。(部分的感想。〉
  風間 祥 * 『短歌について』 * 18:55 * comments(2) * trackbacks(0) *  
『風通し』より 3   /  笹井宏之さんの歌
2008.12.06 Saturday
0

 

「ななしがはら遊民」   笹井宏之

・生きようと考えなおす さわがにが沢を渡ってゆくのがみえて

・甲羅からピアノの音がきこえます 亀だとおもいます ショパンです


好きな歌だけ抄出しました。
この人の歌は、定型に親しんで書いているタイプの歌のようです。
詩人として生まれついた人は、普通の人生が生き難いように思います。
彼らが夭折しやすいのは、この世との接合部分で摩擦が起き、
容易に焼き切れてしまうからではないでしょうか。

「タフでなければ生きられない。優しくなければ生きる値打ちもない。」
レイモンド・チャンドラーの言葉ですが、
普通に生きる。ただそれだけが、普通の人と比べて、
何十倍も何百倍も、精神的に辛い人がいる。
意識して、何度も何度も考え直して、生き続ける人がいる。
神さまが彼を守らなければ、長く生きられない人たちがいる。
血を流しながら、沢蟹のように斜面をのぼっている。

今日の短歌誘拐/ 笹井宏之『ひとさらい』
2008.02.25 Monday
0

 

 

 

 

 

 


2008年1月25日発行
定価1200円

・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・雨ひかり雨ふることもふっていることも忘れてあなたは眠る
・四ページで飽きる本とかを背骨よりだいじにしています
・骨のような犬がいたので分けてやる 大きな千鳥饅頭のあたま
・ウエディングケーキのうえでつつがなく蝿が挙式をすませて帰る
・簡潔に生きる くらげ発電のくらげも最終的には食べて
・嫌われた理由が今も分からず泣いている満月の彫刻師
・完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり
・蛾になって昼間の壁に眠りたい 長い刃物のような一日
・家を描く水彩画家に囲まれて私は家になってゆきます
・この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
・あまがえる進化史上でお前らと別れた朝の雨が降ってる
・それは世界中のデッキチェアーがたたまれてしまうほどのあかるさでした
・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔
・ブレイカー落としてまわる 人生に疲れたひとたちのなれのはて
・一生に一度ひらくという窓の向こう あなたは靴をそろえる
・からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする
・まっすぐに突けば誰かが殺せます 傘だったからよかったものの
・吊り革に救えなかった人の手が五本の指で巻き付いている
・日時計のまわりでわらを編んでいるいのちがついにかたちをとった
・果樹園で風をむすんでいるひとと風をほどいているひとの声

BooK ParK 1月25日発行(1260円)笹井宏之歌集『ひとさらい』より

「あとがき」も詩のように美しい歌集です。


  風間 祥  * 『今日の歌 :本』 * 07:20 * comments(0) * trackbacks(0) *  
今日の歌/笹井宏之さんの歌(題詠100首blog)
2006.09.30 Saturday
0

 

093:落(笹井宏之)
投稿日:2006-09-30 Sat

集落を追われたひとと釣りをする とてもただしいひとだったのに

085:富(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
富だけを持つひとたちが哀しみの椎茸を金盥で洗う


いいですねぇ。
笹井宏之さん。
文学における『リアル』を書くことの出来る人って、
こういう人だと思います。

089:無理(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
ありったけの安心感を差し出してあなたは無理のあることをした

080:響(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
どちらからともなく音になりすまし夜の海へと響いていった

079:芽(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
おむかいの倉本さんが発芽しているので水を買わねばならぬ

076:あくび(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
あくびするあなたの横を爆撃機のように飛び立つ鳩の一群

064:百合(笹井宏之)
投稿日:2006-06-17 Sat
シゲヨさん、むかしのことをはなすとき百合にならなくてもいいからね

045:コピー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-24 Wed
太陽と月と砂しかない場所でひっそりと震えだすコピー機

034:シャンプー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-11 Thu
知られてはならないことをひとつずつシャンプーの原液へと溶かす

風間 祥  * 『今日の歌 :インターネット 』 * 11:05 * comments(0) *
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「森の時間」/デッサン
2010.01.30 Saturday
                 
・突然に暗黒世界がやってきて霧という霧あつめて去った


・湧水が生まれる森の奥深く胞子無数に浮遊する夜


・その人は幸福だろうか語られて視られて一つの伝説となる


・昔いた 山荘に住む少年が 詩画集のこす無口な人が


・最後の日々苦しんでいた気配がある 直射日光隈なく射して


・ある意味で殺された人 春浅い汽水の水の満ちて引く間に


・静謐な時間が流れ深海に光を避ける時間が流れ


・胸中に笹竹が生え笹竹は光のそよぎ風に伝えて


・ひっそりと絵を描いていた少年がひきずり出された空中画廊


・深層の心理伝える手紙書く手紙は森のポストに届く


・広場では篝火高く積み上げて祭りの準備も終ったらしい


・明けやらぬ未明の空を墜ちてゆく昨日巣立った春の山鳩



                                                                                                   『開放区』2010.2.1










 

風間祥  * 『歌集、歌書、歌誌、その他書評』 * 12:10 * comments(0) * trackbacks(0)

笹井宏之

音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔 /笹井宏之


他の歌人には越えられなかった厚い壁をかるく越える歌を残して、
笹井宏之は、ある日あっけなくあの世へ旅立って行ってしまった。
あっけなく、と思うのは、他人の印象であって、
笹井宏之自身にとっては、長い長い時間であったのかもしれない。

 

 

一生に一度ひらくという窓の向こう あなたは靴をそろえる 

窓の向こうに見えたのは虹?
透明な空?

 

 

 

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす 

眠らないただ一本の樹になる。
全ての人が見棄てた時にも、あらゆる人が眠っている時にも、
ただひとり目覚めて、感受し、受苦し、世界の傷について想っている。
多分それだけが詩人の仕事。
病む世界の断末魔そのものであることが。

 

風間祥  * 『短歌について』 * 15:10 * comments(0) * trackbacks(0)

彼はたぶん「死者の仕事」をしに行った 快活な死者、笹井宏之

「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。」というのは、
堀辰雄の『聖家族』冒頭の有名な章句ですが、
笹井宏之さんの死にも通じるものがあります。



偶然にしろ、身体を代償としてしか伝わらないことの多い、
天才的な人たちの、ある意味定められた運命。

逝かれてみなければわからないということも
私たちにはあるのでしょうね。
一期一会と言いますが、
笹井さんが残して行った詩篇、歌、笑顔、コメントの優しさ。
素敵な贈り物のような気がします。

ひときわ汚れのない心と類い稀な才能を持った若者が確かに存在した。
それは幻でも何でもなく、
私たちは、この眼で見、読み、実感した。

この時代に生きて、
笹井さんの歌を少しでも読めてよかったと、
私も思います。

もっと長生きをしていたら、
もっともっと沢山の言葉を私たちは読めたかもしれないけれど、
苛酷なことではあるけれど、このような真摯な一瞬性を持って人々の胸に、
虚空を渡る彗星を見るような鮮やかさで、
広く伝わったかどうかは分りません。
死が、明らかに扉を開いたのです。

死者には死者の仕事がある、というのは、
堀辰雄の尊敬するリルケの言葉です。
笹井さんも死者の仕事をするために、
この現世を、ひと足先に旅立ったのでしょう。

今後もおりにふれて笹井さんの歌を読んでいきたいと思います。
風間祥  * 『短歌について』 * 12:20 * comments(0) * trackbacks(0)

笹井宏之さんの歌

・終止符を打ちましょう そう、ゆっくりとゆめのすべてを消さないように
・祝祭のしずかなおわり ひとはみな脆いうつわであるということ
・氷上のあなたは青い塔としてそのささやかな死を受け入れた
・百年を経てもきちんとひらきますように この永年草詩篇
・感傷と私をむすぶ鉄道に冬のあなたが身を横たえる
・ほんとうにわたしは死ぬのでしょうか、と問えば杉並区をわたる風
・夕立におかされてゆくかなしみのなんてきれいな郵便ポスト
・切れやすい糸でむすんでおきましょう いつかくるさようならのために
・玄関に大阪城がやってきてとてもかなしいと言って崩れた
・おそらくはあなたにふれていたのです 浜昼顔の眠りのなかで
・苦しくて路面電車になっているひとへレールの場所を教える
・あこがれがあまりに遠くある夜は風の浅瀬につばさをたたむ
・あのひとは階段でした のぼろうとしても沈んでしまうばかりの
・海沿いの小さな町を吹いている一陣のあなたに会いにゆく
・ひとが死ぬニュースばかりの真昼間の私はついにからっぽの舟
・雪であることをわすれているようなゆきだるまからもらうてぶくろ
・ひらかれることはもうないでしょう あの潮騒のきこえる世界地図
・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・こくこくと酸化してゆく悲しみがほのかに部屋に匂うのでした
・誰ひとり見向きもしない帆船に火の夢をみるように伝える
・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔
・ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
・もうそろそろ私が屋根であることに気づいて傘をたたんでほしい
・晴れすぎた空をからだに貼り付けて私は踊らなければならぬ
・あした死ぬかもしれないのにそれなのにどうして壁をのぼっているの
・ひだまりへおいた物語がひとつ始まるまえに死んでしまった
・さよならのこだまが消えてしまうころあなたのなかを落ちる海鳥
・眠ったままゆきますね 冬、いくばくかの小麦を麻のふくろにつめて

                                   笹井宏之

笹井宏之さんの歌を、「妄想」と言う人がいます。
詩性が高く、シャガールの絵の恋人たちや馬のように、
発想が飛びすぎるからでしょうか。
でも、私には、とても素直な、夢や祈りの歌に見えます。
詩人の生き難さと敏感さで、自身の早世を予感して、
いつでも別れを告げていたようにも思います。

笹井さんの歌が、笹井さんの歌の中の永年草詩篇のように
いつまでも読み継がれてゆきますように。
風間祥  * 『短歌について』 * 12:13 * comments(0) * trackbacks(0)

愛されるものは夭折するという【ひとさらい】とは神の異名か 

・魂の魚を降らせる天才と呼ばれる神に愛されし者

・一冊の歌集を残し旅立った 笹井宏之さんのゆく空

・天才は夭折するというけれど 笹井宏之さんの冬の死



ご冥福をお祈りいたします。
1月24日朝のことだったそうです。
思えば、昨年は、笹井宏之さんの歌集『ひとさらい』が、
歌壇に注目され、華々しいデビューを飾った年でした。
その直後の、あっけない死。
語り継がれる天才歌人は、伝説の世界の人でしかなかったけれど、
同時代に、目の当たりにするとは、思いませんでした。
言葉もありません。

★                 ★                 ★

以前書いた関連記事を再掲します。


今日の短歌誘拐/ 『ひとさらい』
2008.02.25 Monday











・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・雨ひかり雨ふることもふっていることも忘れてあなたは眠る
・四ページで飽きる本とかを背骨よりだいじにしています
・骨のような犬がいたので分けてやる 大きな千鳥饅頭のあたま
・ウエディングケーキのうえでつつがなく蝿が挙式をすませて帰る
・簡潔に生きる くらげ発電のくらげも最終的には食べて
・嫌われた理由が今も分からず泣いている満月の彫刻師
・完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり
・蛾になって昼間の壁に眠りたい 長い刃物のような一日
・家を描く水彩画家に囲まれて私は家になってゆきます
・この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
・あまがえる進化史上でお前らと別れた朝の雨が降ってる
・それは世界中のデッキチェアーがたたまれてしまうほどのあかるさでした
・ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔
・ブレイカー落としてまわる 人生に疲れたひとたちのなれのはて
・一生に一度ひらくという窓の向こう あなたは靴をそろえる
・からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする
・まっすぐに突けば誰かが殺せます 傘だったからよかったものの
・吊り革に救えなかった人の手が五本の指で巻き付いている
・日時計のまわりでわらを編んでいるいのちがついにかたちをとった
・果樹園で風をむすんでいるひとと風をほどいているひとの声

BooK ParK 1月25日発行(1260円)笹井宏之歌集『ひとさらい』より


★                 ★                  ★


今日の歌/笹井宏之さんの歌(題詠100首blog)
2006.09.30 Saturday
093:落(笹井宏之)
投稿日:2006-09-30 Sat

集落を追われたひとと釣りをする とてもただしいひとだったのに

085:富(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
富だけを持つひとたちが哀しみの椎茸を金盥で洗う




いいですねぇ。
笹井宏之さん。
文学における『リアル』を書くことの出来る人って、
こういう人だと思います。


〔再録〕



089:無理(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
ありったけの安心感を差し出してあなたは無理のあることをした

080:響(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
どちらからともなく音になりすまし夜の海へと響いていった

079:芽(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
おむかいの倉本さんが発芽しているので水を買わねばならぬ

076:あくび(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
あくびするあなたの横を爆撃機のように飛び立つ鳩の一群

064:百合(笹井宏之)
投稿日:2006-06-17 Sat
シゲヨさん、むかしのことをはなすとき百合にならなくてもいいからね

045:コピー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-24 Wed
太陽と月と砂しかない場所でひっそりと震えだすコピー機

034:シャンプー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-11 Thu
知られてはならないことをひとつずつシャンプーの原液へと溶かす

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風間祥  * 『短歌について』 * 12:00 * comments(0) * trackbacks(0)

永井祐、笹井宏之、山田航、 我妻俊樹、宇都宮敦

綺羅星のように論客並ぶから2009年の短歌は熱い。 

一足早く走り出ていた既に高名な斉藤斎藤さんや、西巻真さんは別格。



笹井宏之さんは、論客というよりナイーブな詩人という感じだけれど、
言っていることは鋭いし、
勿論作品の方は、総合誌等に盛んに紹介されているし、
年間歌集を選ぶような特集でも、
大方の賛成を得て選ばれているから、
後は、現代歌人協会賞でも受ければ、
普通に歌壇の洗礼を受けることになる。
完全に取り込まれるかどうかは、
しなやかな詩人としての資質をより多く感じさせるから、
そうはならないのかもしれないけれど。
その位置的なキープの仕方が、
作品の創造自体に影響を与えそうな気もする。
それぞれ、既成の「短歌人」や「未来」といった結社に属してはいても、
一定の距離を保ち、独自なスタンスやオリジナリティを大切にしてほしい。
風間祥  * 『短歌について』 * 11:26 * comments(0) * trackbacks(0)

文体論としてならよく解る笹井宏之さんの歌二首

・完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり      /笹井宏之『ひとさらい』

・つよがりの筋肉たちをストーブのまえでややありえなくしてみた     
/同



美意識、嗜好と言いなおしてもいいが。
それにしても「ややありえなく」 されるのは、
ものすごく怖い。



/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

穂村  で、実際、今回読んで、やはり、わからない部分をここに含んでるんですよ、僕には。
   
   完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり 

って、これね、「完璧にならないように」がわからない、何を言っているのか。次の歌だと、

   つよがりの筋肉たちをストーブのまえでややありえなくしてみた  

この「ややありえなくしてみた」がね、わからない、何を言っているのか。

    (引用終り〉
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

※『新彗星』
対談 穂村弘と語る
『ひとさらい』と現代短歌
加藤治郎・穂村弘

P.53 (引用部分以外にも、この後も、「わからない」談義が続く〉を読んで。(部分的感想。〉
風間祥  * 『短歌について』 * 18:55 * comments(0) * trackbacks(0)

『風通し』より 3   /  笹井宏之さんの歌

「ななしがはら遊民」   笹井宏之

・生きようと考えなおす さわがにが沢を渡ってゆくのがみえて

・甲羅からピアノの音がきこえます 亀だとおもいます ショパンです


好きな歌だけ抄出しました。
この人の歌は、定型に親しんで書いているタイプの歌のようです。
詩人として生まれついた人は、普通の人生が生き難いように思います。
彼らが夭折しやすいのは、この世との接合部分で摩擦が起き、
容易に焼き切れてしまうからではないでしょうか。

「タフでなければ生きられない。優しくなければ生きる値打ちもない。」
レイモンド・チャンドラーの言葉ですが、
普通に生きる。ただそれだけが、普通の人と比べて、
何十倍も何百倍も、精神的に辛い人がいる。
意識して、何度も何度も考え直して、生き続ける人がいる。
神さまが彼を守らなければ、長く生きられない人たちがいる。
血を流しながら、沢蟹のように斜面をのぼっている。

風間祥  * 『歌集、歌書、歌誌、その他書評』 * 22:53 * comments(0) * trackbacks(0)

 『風通し』 創刊号より  1  斉藤斎藤さんの歌

装丁の書体、
良寛の「天上大風」に少し似ている。













・右腕に脱ぎたての皮フぶら下げて営業マンは全裸よりも全裸
・たましいの抜けきらぬ今しばらくは人目に触れる旅をかさねる
・順路沿いに歩けば起承転結の転のあたりに新生児輪切り  
・中国から来たものでわかりませんが、立ててたんでしょう針金か何かで」
・通りますと聞こえて避ける台車には豚ミンチかるく汗をかいてる
・また一歩記憶になってゆく道にわたしは見たいものを見ていた
・寿命が来るまで殺さぬ理由に空の青さでは足らないか
・寿命が来るまで生きる理由に空の青さでは足らないか
・どのレジに並ぼうかいいえ眠りに落ちるのは順番にではない
                    斉藤斎藤「人体の不思議展Ver.4.1 より)



3ヶ月から10ヶ月まで、1ヵ月毎に並ぶ胎児標本の歌(私のパソコンの
表示機能では、ルビ的に打たれた標本番号が表記不能)は、活字の威力を感じさせる。

斉藤斎藤さんの連作30首「人体の不思議展(Ver.4.1)」は、
リアルな幻想で何やら凄そうだ。
映画だったら私にはとても見られない世界だ。

「詞書き」と「短歌」を組み合わせることによって立体化し、
短歌の枠を広げここまで書くことが出来るのだと、
これから短歌を書こうという若い人は刺激されるだろう。
こういう方法は、古典にはあっても、現在おなじみの短歌では、
あまり見かけない様式だ。

夢野久作や、江戸川乱歩や、四谷シモンの人形や、
富士急ハイランドの病院お化け屋敷「戦慄迷宮」や、
西太后やナチ収容所や731石井細菌部隊のことも、
脈絡無く連想してしまう。

しかし、この作者は、モラリストであり、
死形廃止論者のようであり、
「善人なおもて往生をとぐ いはんや悪人をや」
悪人往生を思う人のようである。
その理由は、生が、やはり美しいものと心の奥底で信ずるからだろう。

この世には、悪と欺瞞が満ち、
「のぼる君」のように障害や難病を恐れる両親に
架空のうちに消去(避妊)されて、
生まれたくても生まれられない胎児がいたり、
愛されなかったり、殺しあったり、
さまざまなことがあるにも関わらず、
こんなにも不条理であるにも関わらず、
否、不条理であればあるほど、
空は青く美しく、人の世は愛しい。
末期の目で生きている以上、
生は美しいのだ。
等しく人が許されるほどには、
生は寛大でも美しくもないのかもしれないが、
それでも、なお寂滅を祈る思いがあるのだ。

たましいの抜けきらぬ今しばらくは人目に触れる旅をかさねる

魂がまだ抜けきらないという。
今しばらくは人目に触れる「私」の生も、
当然のことながら、順番にではない死が不意に訪れ、
魂がいつか抜け切って、魂そのものとなり、
西行のように漂泊の旅に向かうだろうか。
生まれざる子を探すような、
生まれなかった私自身を探すような、
本来在るべきところへ本来在るべき形で赴く、
死と再生。或いは寂滅。
決して誰の目にも触れない旅をする日が。

それは寺山修司の言う「完全なる死体」になるときだろうか。
半分生き、半分死んでいるような今の「私」ではなく。
「不完全な死体」としてでなく。
万能細胞で永遠に生きるなんてまっぴら。
願わくは、臓器となっても曝されることのないことを祈りつつ。

と、これは、
大体で読んだばかりの妄想。
全部読んだら、また別の感想があるかもしれない。

発行日: 2008年11月30日
定価  : 1000円
発行人: 斉藤斎藤
申し込み先: メールブルーkaze104@gmail.com
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風間祥  * 『短歌について』 * 18:51 * comments(0) * trackbacks(0)

 斉藤斎藤氏が読む『時の基底』

『短歌新聞』11月号に。
「折々の率直に貫かれている。──(中略)──夕暮れの河川敷で不良と不良が殴り合ってわかり合うのを見たようにすがすがしい読後感だ。」と書き出される短い文章の中に
も、鋭く核心を突いた指摘。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「てにをはの生動に主体のたましいの震えを読み取る批評はとても説得的だが
大辻の否定神学的短歌観には、あやうさを感じる。
 たとえば大辻が「心情の誠」と言うとき、それは思想や認識以前のプリミティブなものとされ、思考停止ノススメに陥る傾きがある」

 「心情の誠」とは、極力冷静に、分析的であろうとして初めて出会ってしまうような、
なけなしの賭金である筈だ。短歌は、思想に裏打ちされた生の熱さであるべきだ。わたし個人はそう思う。」

         斉藤斎藤/「殴り合いわかり合う」 大辻隆弘著『時の基底』 より
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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風間祥  * 『短歌について』 * 06:37 * comments(0) * trackbacks(0)

今日の短歌誘拐/ 笹井宏之『ひとさらい』












2008年1月25日発行
定価1200円

・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・雨ひかり雨ふることもふっていることも忘れてあなたは眠る
・四ページで飽きる本とかを背骨よりだいじにしています
・骨のような犬がいたので分けてやる 大きな千鳥饅頭のあたま
・ウエディングケーキのうえでつつがなく蝿が挙式をすませて帰る
・簡潔に生きる くらげ発電のくらげも最終的には食べて
・嫌われた理由が今も分からず泣いている満月の彫刻師
・完璧にならないようにいくつもの鳩を冷凍する昼さがり
・蛾になって昼間の壁に眠りたい 長い刃物のような一日
・家を描く水彩画家に囲まれて私は家になってゆきます
・この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
・あまがえる進化史上でお前らと別れた朝の雨が降ってる
・それは世界中のデッキチェアーがたたまれてしまうほどのあかるさでした
・音速はたいへんでしょう 音速でわざわざありがとう、断末魔
・ブレイカー落としてまわる 人生に疲れたひとたちのなれのはて
・一生に一度ひらくという窓の向こう あなたは靴をそろえる
・からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする
・まっすぐに突けば誰かが殺せます 傘だったからよかったものの
・吊り革に救えなかった人の手が五本の指で巻き付いている
・日時計のまわりでわらを編んでいるいのちがついにかたちをとった
・果樹園で風をむすんでいるひとと風をほどいているひとの声

BooK ParK 1月25日発行(1260円)笹井宏之歌集『ひとさらい』より



「あとがき」も詩のように美しい歌集です。

風間祥  * 『今日の歌 :本、印刷媒体』 * 07:20 * comments(0) * trackbacks(0)

『風通し』より 3   /  笹井宏之さんの歌

「ななしがはら遊民」   笹井宏之

・生きようと考えなおす さわがにが沢を渡ってゆくのがみえて

・甲羅からピアノの音がきこえます 亀だとおもいます ショパンです


好きな歌だけ抄出しました。
この人の歌は、定型に親しんで書いているタイプの歌のようです。
詩人として生まれついた人は、普通の人生が生き難いように思います。
彼らが夭折しやすいのは、この世との接合部分で摩擦が起き、
容易に焼き切れてしまうからではないでしょうか。

「タフでなければ生きられない。優しくなければ生きる値打ちもない。」
レイモンド・チャンドラーの言葉ですが、
普通に生きる。ただそれだけが、普通の人と比べて、
何十倍も何百倍も、精神的に辛い人がいる。
意識して、何度も何度も考え直して、生き続ける人がいる。
神さまが彼を守らなければ、長く生きられない人たちがいる。
血を流しながら、沢蟹のように斜面をのぼっている。
風間祥  * 『短歌について』 * 22:53 * comments(0) * trackbacks(0)

今日の歌/笹井宏之さんの歌(題詠100首blog)

093:落(笹井宏之)
投稿日:2006-09-30 Sat

集落を追われたひとと釣りをする とてもただしいひとだったのに

085:富(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
富だけを持つひとたちが哀しみの椎茸を金盥で洗う




いいですねぇ。
笹井宏之さん。
文学における『リアル』を書くことの出来る人って、
こういう人だと思います。



089:無理(笹井宏之)
投稿日:2006-08-26 Sat
ありったけの安心感を差し出してあなたは無理のあることをした

080:響(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
どちらからともなく音になりすまし夜の海へと響いていった

079:芽(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
おむかいの倉本さんが発芽しているので水を買わねばならぬ

076:あくび(笹井宏之)
投稿日:2006-07-13 Thu
あくびするあなたの横を爆撃機のように飛び立つ鳩の一群

064:百合(笹井宏之)
投稿日:2006-06-17 Sat
シゲヨさん、むかしのことをはなすとき百合にならなくてもいいからね

045:コピー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-24 Wed
太陽と月と砂しかない場所でひっそりと震えだすコピー機

034:シャンプー(笹井宏之)
投稿日:2006-05-11 Thu
知られてはならないことをひとつずつシャンプーの原液へと溶かす


風間祥  * 『今日の歌 :インターネット 』 * 11:05 * comments(0) * trackbacks(0)
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